実は東京でも電力の地産地消が可能!? ソーラーメガロポリス東京構想

エネルギー問題
出典:京セラ 東京電力株式会社 扇島太陽光発電所 川崎市臨海部設置




「これからは電力を地産地消する時代だ」ということが言われて久しい。地元に豊富に存在する風力や水力を使って、その地域の電力を賄いましょう、という訳である。

ただ、この場合、念頭に置かれているのは一般に地方というか、郊外である。「東京でやろう」と言い出した人はまだ誰もいないし、言ったところで馬鹿扱いされるのがオチだ。専門家も素人も、そんなことが可能だとは誰も思っていない。

だが、本当にそうだろうか。われわれが勝手に常識だと思っていることは、意外と色眼鏡の産物だったりする。この問いを一度、真面目に追求してみることは、単なる知的な遊びのように思えて、実は既成概念を外して電力システムを改めて見つめ直す作業ともなるのではないだろうか。そういうわけで、以下から一種の思考実験として試してみたい。



東京都の年間電力需要は約800億kWh

東京都統計年鑑によると、2010年度の都の年間電力需要は827・5億kWhである。当然ながら全国で一位だ。原発事故以降に一部で省エネが進んでいるので、とりあえず今現在は「800億kWh」という想定でいいと思う。また、同年度の最大需要は1736万kW(23区1336kW+多摩区400kW)だが、都の資料によると、11年度には節電で1460万kWに削減することに成功したそうだ。ただ、今回はピークのほうはあまり重要ではない(*理由は後述)。

要は「同じ都内で採れるエネルギーで800億kWhの需要が賄えるか否か?」という話である。南関東ガス田を持ち出すのはやめておこう。なぜなら、一般に「地産地消」を謳う場合、そこには「持続可能」という意味も込められているからである。とりあえず化石燃料を持ち出すのは“反則”で、あくまで自然エネルギーのみという条件にしたい。

ただ、そうすると、東京都の場合、有力な候補は太陽光だけとなる。厳密には奥多摩湖の小河内ダムはじめ、多摩川水系に数個のダムがあるが、合計出力は数万kW程度である。都内の水力は、比率的には数の内に入らないと見なすべきだろう。

しかも、東京都の人口は約1318万人で、全国の都道府県で一位だ。これは総人口の10%超にあたる。1平方キロあたりの人口密度は約6千人。これも全国一位で、2位の大阪府の1・3倍だ。面積に関しては、下から三番目の21・9万ha(*下から1位は香川県18・8万ha、2位は大阪府19万ha)である。

以上のことから、全国でもっとも人口密度と電力需要密度の高い東京都は、同時に「自然エネルギーによる地産地消がもっとも難しい県である」ということができる。地熱・大型水力・大型風力・海洋エネルギーなどに乏しいので、都内で採取可能なエネルギーといえば、実質、全国どこにでも降り注ぐ太陽光だけである。このようなことから、仮に東京で電力の地産地消が可能であれば、「技術的には全国どの県でも可能である」ということが言えるのではないだろうか。この前提に関しては同意していただけると思う。

4万ha(出力8千万kW)もの発電面積が必要

さて、太陽定数は季節によって微妙に上下するが、平均すると1㎡あたり約1kWである。年間有効日照が「約1千時間」というソーラービジネス基準を適用するならば、国内の1万ha(10km四方)の土地に降り注ぐ太陽エネルギーは年間で1000億kWhとなる。仮に「発電効率80%」の太陽電池があれば、東京都の5%弱に当たる1万haの発電面積で電力がすべて賄える計算になるが、今市販されているパネルの効率は15~20%程度にすぎない。つまり、1万haの発電面積で年産150~200億kWhがせいぜいである。

太陽光発電は今現在、出力1万kWで約50億円のイニシャルコストだ。ソーラービジネス基準でいうと、年間発電量は約1000万kWhである。立ち上げ後は、無人・無燃料・ほぼメンテフリー運転なので、ランニングコストは非常に安く、このような初期の導入費がコストの大部分を占める。ちなみに、これは1kWに換算すれば50万円となり、現在の住宅用システムもほぼこれと近似した値である。

ということは、年間で100億kWhを発電するためには、1千万kWの設備と5兆円のコストが必要という計算になる。800億kWhならば40兆円だ。仮に20年かけて地産地消型の電力システムを整備するとすれば、年間に必要な予算は2兆円となる。もっとも、これは単純すぎる話で、現実には勘案すべき様々な要素がある。

まずコストの低下要因から見てみよう。第一に、今後20年にわたる長期計画であれば、発電効率が現状のまま固定するとは思われない。今主流の太陽光パネルは効率が15%程度だが、今後20年間の平均をとるなら、さすがに20%に基準を移しても差し支えないと思う。ということは、年間に800億kWhの電力を得るためには、4万ha(出力8千万kW)もの発電面積が必要ということだ。

第二に、建設費の低下も予想される。これは一般に学習効果と呼ばれ、太陽光発電の分野ではかなり鈍化したが、まだ伸びしろがある。たとえば、20年というスパンを考えるなら、平均で25%のコスト低下は決して希望的観測ではない。実際、この想定は、昨年末、国家戦略室が公表した20・30年度の太陽光発電のコスト試算よりも、むしろタイトである。つまり、イニシャルコストは計40兆円ではなく、最終的に30兆円となる。

すべて込みで「40兆円」の整備費か

ただし、現実の供給を考えると、逆にコストの増加要因もある。太陽光発電には天候による出力変動がある。たとえば、夜間や雨天時には別の電源が必要になり、その分が二重投資になる。また、一般に、電源は年間消費量ベースでなく、需要ピーク値ベースで整備しなければならない。なぜなら、電力消費は常に一定していないからだ。そのため、必要な設備容量は「最大需要+余力」となり、夏ピークが急カーブを描く日本では実質、4割近い過剰設備を抱えてしまっている。このような欠点を解消するためにはどうしても蓄電池が不可欠であり、そのための莫大な費用が別に必要だ。

幸い、メガソーラーは発電所での電力貯蔵が比較的容易だ。実はこれは太陽光発電の素晴らしい長所の一つである。というのも、既存の原子力・火力・水力発電の場合、「巨大なタービンや水車」と「巨大ダイナモ」の組み合わせであるため、電力の保存がし辛い。このような大電力を保存できる蓄電池は、巨大な揚水発電くらいである。

ところが、メガソーラーの場合、実態は小さなモジュールの集合体であるため、いくらでも区画できる。たとえば、出力100万kWの発電所であっても、それを200に分割し、5千kWごとに一つの蓄電池を対応させればよい(似たことはウインドファームにもいえる)。この蓄電能力の付加によって、メガソーラーはダム式水力に似た電源へと進化を遂げる。

仮に、その能力を高めたメガソーラーだけで電源整備を進めていくと、バックアップ用の二重投資を防止するだけでなく、最終的には需要ピークから年間消費量を基準とした新たな電力体制へとシフトできよう。これは漁業に冷凍庫が登場したに等しい革命と思えばよい。

むろん、これは商用電源だけでなく、住宅やビルなどの自家用でも同じことである。「今回はピークのほうはあまり重要ではない」と言ったのは、余計にコストをかけて、官民で大容量蓄電池の整備を進めていくことも計画に含めたいからである。

また、もう一つの追加コスト要因は「予備力」の整備だ。4万haの太陽電池と大容量蓄電池だけでは、供給がギリギリとなってしまう。必ず「遊び」に当たる余力が必要となる。これに当たるものとして、今回の計画では以下の二点の追加を想定したい。

第一は、太陽電池の「縦置き」分である。一般にソーラービジネスが日照1千時間を基準としているのは、「寝かせ置き」したパネルが、曙光や西日などの水平光をほとんど捕捉できないからである。上で述べた4万ha分はこの「寝かせ置き」だ。ところが、実際の東京都の年間日照時間は、年によって変わるが、1800時間前後もある。「縦置き」パネルならば、従来捨てていたこれらの光線が補足できる。これは実際には自家発を進めるビルやマンションなどの壁面や窓ガラスを利用する形となるだろう。

第二は、建物の屋上や角の部分に設置する小型の風力発電機である。とくにビル・マンションの屋上は、都会であっても風況が馬鹿にならない。ちなみに、今現在の市販品だと、日本製のものは高性能だが、価格はボッタクリに近い。対して、台湾製などを使えば、設置場所によってかなりの差があるが、おおむね都会でもペイすると考えてよい。

今回の計画では、私用であれ公用の建物であれ、以上の二つの導入を進めていくものとしたい。予備力として1割必要だとすれば、年産80億kWh分の設備容量となる。これらはいくら増やしても「土地面積」とは関係がない、という点がポイントである。

さて、説明が長引いたが、以上をまとめると、都内地産地消用の電力システムとして、

  1. 発電効率20%の太陽光パネル4万ha(年間発電量800億kWh)……30兆円
  2. ピーク対応と負荷平準化を可能にする大容量蓄電池……?兆円
  3. 「縦置きパネル」と「小型風車」の予備力……?兆円

の三つが必要不可欠と考えられる。学習効果によるイニシャルコストの削減分を10兆円と考えたが、その分を2と3に投資する形にしたらどうだろうか。そうすると結局、すべて込みで40兆円の整備費という計算になる。20年計画ならば年間予算は2兆円だ。

2万haが自家用設置に向いている

さて、官民合わせて4万haである。当然、私有地と公有地で分担する形になる。大事なことは「できるだけ土地を潰さない」ということだ。住宅の屋根、ビルやマンションや公共施設の屋上、駐車場の上部空間(*フレームで頭上に架台を作ればいい)などを利用する。いずれも土地の二重利用であり、無駄がない。この部分に「寝かせ置き」のパネルを可能な限り導入する。それで届かない部分を商用太陽光発電で補えばいい。なぜこういう方針が理想かというと、都市部では地価が高く、貴重だからである。日本には砂漠のようなタダ同然の土地がほとんどないこともあり、本質的に個産個消に向いている。

そうすると、一番重要な点は「そのための面積が都内にあるのか」である。まず東京都の基本的なデータをおさらいしておこう。

面積は21・9万haであるが、これは森林や河川や小笠原諸島(約1万ha)も含んでの値だ。都の資料によると、可住地面積はちょうど14万haであり、そのうち民有地が約10万haである。ちなみに、23区の面積が6・2万haだ。民有地の内訳は、宅地が約5・7万ha、残る約1万haが田畑、約3万haが山林である。重要なのは、この「宅地」である。というのも、これは一般に「建物の敷地に供せられる土地」をいい、農地・道路・公園等は含まないので、この部分が太陽光パネルの主な設置対象となるからである。

ただし、この数値だけでは、4万haものパネルをどんなふうに設置していけばよいのか、今ひとつ見えてこない。私の知る限り、肝心な「東京都の建物の屋根・屋上の面積」といった統計がないのだ。そこで「建築面積」を代用しようと思う。

5年前のものだが、都の都市整備局の土地利用資料によると、都内の建物の数とその平均敷地面積、建ぺい率は以下のようなものだ(*建ぺい率とは、敷地面積に対する建築投影面積のこと。たとえば建物から張り出しているケースのバルコニーなども含まれる)。

  • 23区部……建物164万棟、平均敷地面積218㎡、建ぺい率約51%
  • 多摩都市部(26市2町)……同99万棟、同287㎡、同39%

以上の資料からすると、区部の建築面積が約1・82万ha、多摩区のそれが約1・11万haとなる。ただし、この5年間に約50万人も都民が増加しているので、その間の新規着工などを勘案すると、ちょうど「約3万ha」と見なしてよいと思う。これはあくまで建築面積だが、もっとも屋根・屋上の面積に近い数値でもある。

つまり、3万haである。敷地の余り部分も含めると、自家用設置だけで4万ha分の導入が可能ではないかとも思えてくる。しかし、建物の高さがある都心では、その部分はパネルの設置にはまったく適さない。日当たりが怪しいし、だいたい邪魔だ。敷地の余りが使えるとしたら、やはり郊外だろう。東京西部の武蔵村山市や福生市などの建物――たとえばドライブインの飲食店や小売店、二階建てのアパートなど――に付随する駐車場であれば、フレームを組んだ「頭上設置」によって、うまく二重利用が可能だ。

しかし、こういった想定は、できるだけ余裕を持たせるべきである。駐車場の二重利用などの、敷地の余った部分を活用しても、東京都が実質的に土地を殺さずに導入できる分は、やはり「2万ha」程度が限界であると見なしたほうがよい。それでも、実際には東京中の建物ができる限り自家用の太陽光発電システムを備える必要がある。

一戸建て住宅、アパート、マンション、オフィスビル、雑居ビル、小中高校・大学、商店、デパート等商業施設、ホテル、病院、工場、倉庫、流通センター、青空駐車場…等など。とくに企業が導入を始めた場合、それは個産個消用であっても中身はメガソーラーなので、普及に際しての大きな“戦力”になるだろう。

基本的に民間自家用のものは、条件が整えば市場が勝手に普及を進めていくと思われる。今、太陽光発電の価格が低下中だが、一方で電気代も上昇しているので、相対的経済性は急激に改善されつつある。近い将来、「蓄電池込みのグリッド等価」は確実に訪れるだろう。民の発想は「投資が何年で回収可能か」である。今や売電・補助金込み――将来的には廃止すべきだ――で十年以内のところまで来ているので、分岐点はかなり近い。

つまり、計画とはいうが、民間のほうは放っておいても構わないのである。おそらく、普及は爆発曲線を描く形になるので、きれいに「年間1兆円の投資が20年間」というわけにはいかないが、とりあえずペイするならば、最終的には2万ha分が導入されるものと見なしてもよいのではないだろうか。問題はむしろ「官」のほうだ。なぜなら、その2万haもの面積をどうやって確保するかという条件で、いきなり躓くからである。当然、「いかに土地を殺さずにパネルを敷設していくか」が知恵の発揮しどころとなる。

東京湾ギガソーラー構想

真っ先に思い浮かぶのは、政府や自治体の公共施設である。霞ヶ関庁舎、市区役所、税務署、労基署、警察署、消防署、郵便局、ハローワーク、社会保険事務所、公立小中高大学、図書館、公民館、行政法人、公立スポーツ施設、公立劇場・ホール、公立病院、公園(の一部利用)、中央卸売市場、浄水場、下水処理場、清掃工場、公立アパート・団地、自衛隊施設、等などだ。だが、これらはどうやら「宅地」に含まれるらしい。つまり、上の2万ha分に含まれる形になるのである。

よって、他に設置場所を探さねばならない。私の結論は、「西部に広がる森林を潰したくなければ水上を利用するしかない」である。つまり、フロンティアは「東京湾」だ。

東京湾の面積は約14万haであるが、富津岬と観音崎のラインの内側という狭義だと9・2万haとなる。実際、東京湾アクアラインの「海ほたる」などから眺めると、改めて東京湾の広大さが実感される。問題は水上にどうやって設置するかである。一般に沿岸部は船が行き来する埠頭として利用され、工業施設や倉庫が集積しているので、その周辺に展開するのは控えたほうがいい。つまり、できるだけ湾の中心のほうが邪魔にならない。

しかも、外海ではメガフロートのような構造物が必要になるが、東京湾は比較的穏やかな内海なので、「浮体式パネル」を使えばいい。要は「浮き」付きのパネルである。これを湾の中心部にプカプカと浮かべていく方法で設置を進めていく。その際に、今いった「海ほたる」を利用すれば、送電の問題と施工アクセスの問題も解決する。同じ都内なので、昇圧も6600Ⅴ程度でオーケーだろう。浮体1基につき小型風車や波力発電(「波」よりも「揺れ」を利用するタイプ)も付けて発電量を上げることも可能だが、ここはひとまず徹底した簡素さを追及したい。

おそらく、この工法がもっとも経費を抑えられる。陸上ではせいぜい1万kWクラスだが、これなら1千万kWクラスも可能だ。仮に1~2万ha規模の太陽光発電所を作ると、もはや「ギガソーラー」の領域に入る。工場丸ごと予約のような、凄まじい大量発注となるため、今すぐ作り始めても一般メガソーラーのように「1万kW=50億円」もかからないはずである。民間運営でないので「儲け分」を上乗せする必要もない。

しかしながら、土地代不要・簡便設置のメリットと引き換えに、東京湾の中心部に事実上の「人工島」を作る羽目になる。長方形の湾にあわせてやや細長い人工島にすべきだが、それでも船舶の航行がかなりタイトになるに違いない。幅5キロ程度に縮まった海域で今のような往来をやると、管制がパンクし、海難事故の可能性が高まる。よって、「湾内の航行は時計回りにする」といった新たなルールが必要になる。

「ソーラーメガロポリス東京」は可能なのか?

このギガソーラーだけで2万haの消化が可能かもしれないが、念のために他の方法も考えておきたい。やはり、なるべく国交省や自治体の公有地を活用すべきだろう。

まず、同じ水上利用ということで、荒川およびその河川敷が有望ではないかと思う。荒川は、中川が合流するあたりから、川幅500メートルに達する。広大な河原を利用するだけでなく、同じ浮体式パネルで「中洲」を作る方法で、川そのもののスペースも利用できる。多摩川にゴルフ場などがあるが、こんな無駄な土地利用はやめるべきだ。

道路や歩道も有望である。当たり前の話かもしれないが、都会であっても「東西を走る道路」の「北側」の部分の日照がとてもよい。2車線以上ならば、歩道上に「ひさし方式」――別名「バス停方式」といえばイメージし易いと思う――のパネル設置が可能だ。また、塗料型の電池を使って道路面そのものを発電パネル化する方法もあるが、これは今はスルーして、改めてEVの話題のところで詳しく説明したいと思う。駅や線路上も有効だ。これは民間の敷地だが、交通インフラという公共的性格のため、こちらに側に分類した。駅設置は個産個消になるが、線路上の空間や端っこのスペースは商用発電になる。

さらに、私が目をつけている場所の一つに横田基地がある。ここの面積は710haもある。米軍が永遠に駐留するとは考えられないから、ここも立派なメガソーラー候補である。また、どうせなら東京都が所有する、25haの晴海五丁目のオリンピックスタジアム建設予定地もメガソーラーにしてはどうか。こういった場所では、架台を高くしてパネルを「頭上置き」したらいい。その下の空間はそっくり使える。駐車場などに適しているが、「人工日陰環境」でもあるので、実は薬用植物やキノコの栽培などの農業にも使える。地面に直置きする場合は草食動物を放って、草刈りついでに畜産をやればいい。

皇居の一部もメガソーラーにしたらいい。皇室の先祖は太陽神の天照大神なので、別におかしな話ではないが、これには二つの意味がある。一つは、万一の際にも電力が自給できること。もう一つは、天皇陛下が範を示される形になること。これは合理的にはともかく、日本的には非常に重要な意味を持つことは言うまでもない。

最後に費用について触れよう。官民で年に1兆円ずつの投資と説明したが、東京のGDPが1兆ドルを超えていてカナダに並ぶことを考えると、決して無茶な計画ではない。しかも、これは「生き投資」である。民側の投資は電気代の削減となって反映される。20年以内に償却できれば黒字である。官の投資もまた、電気代収入として回収できる。そこらの土木工事のように「使い捨て」ではないのだ。ただし、100%回収してしまっては、メガソーラーまんまの電気代になってしまい、都内企業に負担がかかる。回収率を5割に留めれば、電気代を半額にできる。つまり、実質の予算5千億円である。一般会計と特別会計を合わせた都の予算は約12兆円だ。都市整備局・環境局・建設局・港湾局の合同プロジェクトとすれば、5千億円を捻り出すことは不可能ではない。もっとも、これは電気料金を税負担に付け替えているだけなので、トータルでの市民サイドの負担は同じなのだが。

しかも、これは重要なことだが、最初の整備こそ総額40兆円かもしれないが、2サイクル目になると、学習効果の進展によってさらに安くなるはずだ。東京湾ギガソーラーを運営する都が電気代をまけるような配慮は、一期目だけで済むのではないか。

以上、結論をいえば、現在の技術的・経済的・社会的条件から考えて、都内で電力を地産地消することは可能かもしれない。2015年度からスタートすれば、35度年の東京都は、電力をすべて自給できる持続可能な「ソーラーメガロポリス」へと変貌できるだろう。年産400万kWのパネル生産体制をどうするかという問題があるが、20年間の儲けが保障されるならメーカーも喜んで投資するわけで、これは計画をアナウンスしたあとに、都がメーカーと専属契約を結ぶ形にすればよい。

さて、もっとも条件がタイトな東京都でさえこれなのだから、他の地域は推して知るべしである。つまり、電力の県内地産地消は、日本全国どの都道府県でも可能ということだ。同じように難しいのは大阪、愛知、福岡だろう。こういった県でも個産個消を進め、足りない部分を洋上利用で埋め合わせればよい。幸い、大阪なら関西国際空港、愛知なら中部国際空港、福岡なら北九州空港という「洋上空港」があるので、そこを拠点として周囲をギガソーラー化していくことができる。

もっとも、最後にいきなりテーブルをひっくり返してしまうが、上記の方法はまったくの「下策」にすぎない。はっきりいえば、他にとるべき手段がない場合の苦肉の策のようなもので、政府が本当にやり出したら、「アホか」と、私は必ず反対するだろう。

実は、ここでの私の狙いは、既成概念を壊すことと、ある「考え方」を提供することにあった。「個産個消を徹底的に進める」という点は、これからの方向性として完全に正しいのである。ただし、それで賄い切れない部分を「メガソーラーで埋める」という点が間違いなのだ。というか、そのような方法の地産地消はまったくの「下策」なのだ。

われわれが目指すべき「最良の策」と、現実的な「中間の策」が他にある。それについては、次回に述べたい。

2012年05月25日「アゴラ」掲載

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