オフィスビルが電力会社を見放す日(後半) 次世代型のビル自家発システム

エネルギー問題






ビルの電力消費と電力料金について

典型的なのが靖国通りだが、都心の4車線以上の幹線道路には、ちょうど10階建て前後のオフィスビルがずらりと並んでいる。一方、その裏側というか、一方通行の小道で区切られたブロックの内側になると、5階建て前後の小さなビルがひしめいている。都心がなぜこのような光景になってしまったのかというと、建築規制のためだ。接する道路幅に応じて、敷地面積に対する延床面積の比(容積率)が決められている。都内の大半を占めるのはこのような中小ビルであり、超高層ビルは東京や大阪にも数百棟程度しかない。

では、ビルというものは、いったいどれくらいの電力を消費し、どれくらいの料金を支払っているのだろうか。入手ルートは明かせないが、私は都内の数十棟のビルに関する詳しいデータを持っている。延床面積は約5千から2万㎡、契約電力は約400から800kW、月々の平均電力使用量は約8万から22万kWhの間なので、すべて中規模クラスのオフィスビルである。一口に電気代といっても、セントラル方式の冷暖房の場合、冷温水発生機を電気式かガス式にするかで、かなり違ってくる(ちなみに、エアコンの省エネが急速に進んだため、今では各フロアに業務用エアコンを入れて個別空調方式にするのが中規模ビルの主流である)。光熱費でいうとそんなに違わないが、その点を補正する必要がある。そうして平均値を割り出すと、月々の電力消費量は1㎡あたり約13kWhだった。これはマンションのちょうど倍くらいである。

あくまで値上げ前の話だが、東電の場合、オフィスビルの電力料金は、契約電力500kW未満ならば、基本料金が1kWあたり1638円だ。つまり、470kWなら毎月約77万円である。ちなみに、商用向けは500kW超えでもさして違いはないし、電力会社間でもほとんど違いはない。厳密には基本料金に「力率」というものが関わってくるが、説明すると非常に長くなる。大まかに計算する場合は、実態として考慮しなくてもよい。

一方、従量料金は季節によって異なるが、平均すると1kWh=13円程度である。家庭より10円前後も安い。よって、月々の使用量が平均17万kWhならば、221万円だ。ここに小額の雑費や燃料費調整が関わってくるが、これも無視してよい。以上の基本料金と従量料金を足すと、月々の電力料金は「約300万円」となる。年間に直すと、3600万円だ。実は、これは延床面積が約1万㎡超の、都内に実在する某ビルの例である。

このように、一般に「業務用電力は安い」と言われるが、実際は基本料金でかなり分捕られている。契約電力はそのビルのデマンド値から求められるので、基本料金を減らすためのもっとも有効な対策はピークカットとなる。つまり、年間の電力消費量は同じでも、負荷曲線を平準化すると、基本料金をぐっと下げることができる(*実はこれは家庭でも同じであり、分電盤に記された「30A」などの数値がそれに当たる。電力の「見える化」が実現すれば、各自で容量の最小化の道筋が見つけられると思う)。

以上、大通りに面している10階建て前後のビルがあったら、よほどペンシル型や横長でない限り、需要規模としては、ほとんどこれとドングリの背比べであると見なしても差し支えない。

ビルが“メガソーラー化”しても…

さて、ビルの電力消費や電力料金というものをある程度理解していただいたところで、前回の記事で触れたように、次にビルが“メガソーラー化”した場合を考えてみたい。

すでにマンションでは先行している。以前はオール電化などを付加価値としていた分譲マンションだが、東日本大震災後はそれに加え、太陽光パネル設置、免震装置、棟内のスマートコミュニティ化などをセールスポイントとする傾向が強まっている。タカラレーベンが横浜市に建てた5階建てマンションなどは、屋上いっぱいに太陽光パネルを敷設し、各戸にパネルと蓄電池を割り当てている。これで光熱費6割カットだという。ということは、仮に将来、パネルの発電効率が倍になれば、このマンションは屋上の太陽光だけで電源自立が可能だということだ。

ただ、これは5階建てである。タワーマンションなどの高層建築ならばどうするのか? 同じ問いかけは、そのままビルにも当てはまる。言うまでもなく、縦長の建物ほど、屋上スペースに比して延床面積が広い。また、今言ったように、ビルの電力消費量は1㎡あたり月に約13kWhであり、これはマンションの倍だ。一階の平均的な高さは、ビルが約4m、マンションが約3mである。このような数値からすると、一般に「ビルのほうがマンションよりも需要密度が濃く、太陽光発電で電力需要を賄うのがより難しい」と言えよう。

ビルやタワーマンションのメガソーラー化にあたって活躍するのが、外壁材タイプの太陽電池である。三菱ケミカルが来年市場投入する製品は、パネル型の十分の一のコストで、なおかつ発電効率が11%という優れものだ。類似品として「塗料型」や「窓ガラス型」も実用化されており、すでに6~7年前から登場している。これらを組み合わせることで、高層建築物がそのままメガソーラーになる時代が、ようやく訪れたのである。

ただし、経済性に関しては、未だ不明と言わざるをえない。「外壁材型太陽電池」の価格自体は安くとも、それを既存ビルに貼り付ける場合、どうしても足場を組む必要があるが、その施工例がない。「塗料型」ならゴンドラだけで可能だと思うし、「窓ガラス型」なら、全面ガラスでない限り、交換作業ですむ。だが、最初からメガソーラービルとして建設するならともかく、途中からメガソーラー化する場合、結局は施工費不明だ。

もっとも、ここで逡巡していても生産的ではない。個産個消の場合、少なくとも土地代は不要なので、工費込みで少しはペイすると仮定し、「発電ビル化によってどれくらいの需要が賄えるのか?」という、もっとも肝心な点について探ってみたい。

私が知る都内の数十棟のビルに関して言うなら、どれも屋上には日が射すし、ビルの東西南面のどれかに日が当たるようになっている。私の都心調査では、一部の運の悪いビルを除いて、大半がこの条件をクリアしている。当たり前だが、裏通りにある小さなビルほど日照に乏しく、図体が大きいほど有利なのが現実であった。ともあれ、中規模ビルを基準とし、屋上には太陽光パネルを敷設、東西南のどれか一面に「外壁材型」「塗料型」「窓ガラス型」又それらの組み合わせを設置することを想定したい。

ただし、一般にビルの屋上には様々なモノが配置されている。エレベータ機械室を収容した塔屋はむろんのこと、室外機、キュービクル、高置水槽などがある。ただ、メガソーラーのパネルが架台に設置されていることを思い出してほしい。つまり、骨組みさえあればよいのだ。容積率に含まれるのは「床」であって「フレーム」ではない。架台を使えば、屋上において水平を多くとることができる。ちょうど、人が屋上に立つと、頭上にパネルが並んでいる格好になる。キャットウォーク方式とでも呼ぼうか。実は、これによって夏の強烈な日差しを遮ることは、放熱が必要な受変電設備や室外機にとっても好ましいのだ。

こうして、屋上の面積の7割を太陽光発電に利用できるものとする。対して、ビルの縦面は3階から上の面を利用できるものとする。2階以下は店舗だったり、陰が差すことが少なくないからだ。また、前者の発電効率は2割、稼働率は年間12%を想定する。一方、後者はどちらもその半分の数値を推定する。“推定”というのは、縦置きしたパネルがどれだけ発電してのけるのか、私にも分からないからである。以上、かなり大雑把な計算になってしまうが、厳密に測った場合と極端に違わないとは思う。果たして、このような条件で、メガソーラービルは年間にどれくらいの電力需要を賄えるのだろうか。

正直に言うと、がっかりした。

20棟について計算したところ、ここまでしても、そのビルの年間電力需要の8%から最大22%までしか賄えなかったからである。大半は10%台に過ぎなかった。

見えてきた次世代型のビル自家発システム

仮に九州大学の大屋裕二教授の考案した「風レンズ風車」を屋上隅に設置し、ミッキーマウスのような外観のビルにしても、プラス数%の改善に留まる。おそらく、今後、私に続いて計算する奇特な人が現れるだろうが、きっと同じような結果になるはずである。

以上のことから、現状、太陽光と風力の自家発だけで商用ビルの電力をすべて賄うというのは、幻想にすぎないことが分かる。今、消費エネルギーをビルの創エネ分だけで相殺する「ゼロエネルギービル」の概念が盛んに提唱されている。だが、はじめからそれを意識した特殊な設計のビルならともかく、既存のビルをゼロエネ化するのは、至難の業と言わざるをえない。おそらく、太陽電池の発電効率が今の倍以上になり、さらに省エネの進展によってビルのエネルギー消費が半分以下にならないと、ゼロエネ化は視野に入ってこないはずだ。とてもではないが、五年や十年で達成できるものではない。

そうすると、これから一番求められるビルの自家発は、太陽光とガスのハイブリッド型だということが分かる。ちょうどハイブリッド車のように、当面は自家発もHV型の天下となるのではないか。おそらく、それは次のようなシステムになると思う。

  • 1・屋上に太陽光パネルを敷設する。また、そこは比較的風況がよいので、九大式の「風レンズ風車」なども設置する。
  • 2・東西南のどれかの面に日が差す場合、その面に「外壁材型」「塗料型」「窓ガラス型」などの太陽電池を設置する。
  • 3・燃料電池+マイクロガスタービンの発電機を設置する。
  • 4・その排熱を冷温水発生機や貯給湯に利用する。
  • 5・蓄電池を設置する(ただし、当面、電源自立しないなら、必ずしも必要ない)。
  • 6・以上をITで制御し、最大効率で運営する。

このように羅列すると、何か非常に大げさなシステムに思え、導入コストが高すぎるのではないかと思ってしまう。だが、実質的には、今あるシステムを少し進化させ、自然エネルギー発電などを付け足しただけである。

やはり、要となるのはコージェネレーションだ。「燃料電池+MGT」のダブル発電で、いかに高い発電効率を実現するか。また、排熱をいかに利用し尽くすか。こういうしっかりした基礎があってはじめて、出力変動が激しい太陽光や風力をうまく取り込んでいくことができる。当分の間は、やはり化石エネが主で、自然エネが従だろう。むろん、これらのシステムを総合的に管理し、需給をうまく調節し、消費を節約し、最適化を図るものこそIT――スマートビルの技術に他ならない。この制御ソフトもコア技術である。

いずれ市場は、このようなハイブリッド型のビル自家発システムを生み出すと思う。あるいはこの記事を読んだどこかの会社が作ってしまうかもしれない。実のところ、日本の総合電機メーカーの中には、これとよく似たことを、自社内で試験的に実施しているところもある。個々の技術は日本企業の得意分野ばかりだが、やはりシステムを一つの商品として売っていくことを考えるべきだ。すると、億円オーダーの商品となる。導入後にメンテ契約もできれば、二重においしい。ビルオーナー側としても、技術ごとにバラ売りされるのは面倒くさいはずだ。はじめからシステムとして購入し、メンテ契約もして、その上、総コストベースで買電よりも経費節減になれば、確実に導入に踏み切れる。

しかも、日本以上に世界市場でヒットするかもしれない。北米はガス代が非常に安いし、欧州は電気代が高騰している。両者とも停電の増加などの問題も抱えている。電源自立による経費削減のニーズは高いはずだ。ぜひとも、欧米市場で成功してほしいものである。

やはり電力会社に明日はない?

今は、「電源自立したら万一の自家停電の時が心配だ」と考える人が多いと思う。だが、これから電力会社が停電させるような失態を犯せば、逆の発想になるのではないか。「電源自立しておいたら、万一の停電の際も安心だ」と。いや、そもそも今の段階で電源自立まで果たす必要はないのだ。系統停電の際、従来のような非常用自家発だと数時間の電力供給で終わりだが、常用発電機を入れておけば通常営業が可能となる。

しかも、メリットはそれだけではない。普段のピークカットにも利用できるのだ。たとえば、契約電力500kWの中規模ビルならば、需要が300kWに来たところで自動的に動くようにする。これで200kWのデマンド値を削減できる。このピーク分はたいてい夏冬の昼12時から18時までの間に生じるので、その間だけ発電機を回せばよい。おそらく、それに要する燃料ガス代と電力の従量料金はトントンくらいだろう。だとしても、基本料金分として年間に400万円くらいの経費削減になる。前回言ったように、非常用自家発はもともと数千万円もの「死に投資」なのだ。それを常用にしただけで「生き投資」になる。万一のためにも連系は維持し、必ずしも電源自立を急ぐ必要はないのだ。

おそらく、それは最後の手段かもしれない。これから現実化していくのは、電力会社をバックアップとして利用しつつ、買電の割合をどんどん減らしていく動きである。たとえば比較的手が伸ばしやすいのが省エネだ。今、全館の照明交換があちこちのビルで実施され始めているが、これは「改正省エネ法」(*約1万の対象企業に対してエネルギー使用効率を平均で年1%以上改善する努力目標が課すもの)をクリアするためだけでなく、減価償却が可能だからというのも理由である。同じように、仮にビルのメガソーラー化によって年間需要の1~2割程度しか賄えないとしても、要はペイすればよいのだ。単価さえ安ければ、導入するほどに経費節減になる。また、住友電工の「溶融塩電解液電池」のような安価で高性能な蓄電池が本格的に市販されれば、大口消費端での負荷平準化がペイするようになる。夜間電力を買って、昼間に放電するだけだ。これで従量料金を安くした上、デマンド値(契約電力)まで減らせる。つまり、基本料金も安くできる。実は、すでに個人レベルでは、この一挙両得を実行している人もいる。

このように、仮に電源自立しなくとも、これからユーザーは「省エネ・創エネ・蓄エネ」の三つを勝手に進めていくだろう。これによって今後、彼らは2割、3割と電気代を減らしていくのだ。この流れは止まらない。実のところ、前掲で中規模ビルの電気料金が何千万円という事実を紹介したのも、電力会社の痛手がどれほどのものか実感してほしい狙いもあった。「地域独占」ゆえに、これまで通りにズラリと並んでいるビルは、すべて地元電力の顧客であった。だが、これからはその1棟につき、数百万円単位で売り上げが減っていく時代に入るのだ。電力会社の被る大打撃が容易に想像できよう。

しかも、業務部門は、何もオフィスビルだけではない。その他の業務施設についても軽く触れておこう。まず、学校。災害時の防災拠点でもあるので、むしろ電源自立が望まれるくらい。需要はたいてい100kW以下で、建物が平べったく、体育館と広い敷地も有するので、メガソーラー化プラス風力の設置で自立可能ではないだろうか。次に病院。停電したら患者の人命にかかわるので、以前から非常用の数時間だけでは危ないと指摘されてきた。次世代型の自家発システムは、むしろ病院にこそ必須である。次にホテルや旅館。停電が長引けば、宿泊費の払い戻しが必要になり、大損害を被る。オフィスが停電したら私やあなたは「これで仕事しなくてもすむぞ」と思うかもしれないが、ホテルの宿泊客であったなら、「金返せ」と詰め寄るだろう。人間、個人的な支出のほうが懐が痛むものである。そう考えると、映画館や劇場も同じ。「金返せ」の修羅場である。デパートなどはその日の売り上げがごっそりとなくなる。このように、その他の業務施設は、実はビルよりもはるかに電源自立の動機が高い。停電に対する危機感も、より強いはずである。

さて、日本のエネルギー消費部門は四つある。家庭、業務、産業、運輸部門である。このうち、もっぱら電力を使用するのは前の三つだ。運輸部門が使用するエネルギーのうち、電力はわずか2%――もちろん電車の分――にすぎない。ということは、一般家庭や製造業だけでなく、業務施設までが電源自立また半自立が可能だとしたら、「電力消費者はみんなグリッドからの離脱が可能」ということになりはしないか。おそらく、建物のメガソーラー化と省エネが進行すると、誰もが「その行き着く先」を意識するようになるはずだ。

私は前々回の『電力の個産個消時代がやって来る』で次のような予測を述べた。

今後、電力会社は、電源自立による顧客の減少に歯止めがかからなくなる。人口減少もそれに追い討ちをかける。日本の総人口は、2050年で1億人程度に減るという。(略)

しかも、その「減り方」が歪だ。ある地域の需要が丸ごとごっそりと消えるわけでなく、点々と消えていく形になる。よって、顧客は急減するのに、送電・変電・配電インフラは従来とほぼ同じレベルを維持することを余儀なくされる。(略)自然エネルギー発電の急増により、インフラを強化していくことすら求められる。

つまり、設備コストは膨らむのに、逆に売上げはどんどん減少していく。仕方なく、電気料金の値上げに追い込まれる。それがますます需要家の離脱を招き、さらに収益が悪化して…という悪循環に陥る。やがて、ある時点で耐え切れなくなり、需要家密度の薄い地域を丸ごと放棄せざるをえなくなる。

(略)商用電源はこれから、人口減少と需要家離脱のダブルパンチ、いや、インフラ投資も含めたトリプルパンチによって、年々、経済性が悪化していく。対して、プライベート電源は、逆に年々、性能やコストを改善させていくだろう。

電力会社にとっては、大口客の電源自立だけでなく、上で述べた「半自立」ですら厄介だ。彼らは巨大な送電・変電・配電という「非生産設備」を抱えている。これらは様々な電圧帯の顧客に電力を届けるための“必要悪設備”といってもよい。むろん、需要減に応じて減築対応するだろうが、もともとのシステムからして、そのコスト削減効果はとても売上減に比例できるものではないはずだ。対して、電力の個産個消は、発電機と需要家が直結している。パワコンとか蓄電池が、巨大電力の「非生産設備」に相当するのだろうが、それでも比較的小さな装置にすぎない。よって、今後いかに発電部門を自由化しようが、その企業が従業員を無給でこき使おうが、送変配電コストを絶対的に背負う系統電力は、最終的にはプライベート電力との競争に敗れるだろう。

これは「恐竜VSホ乳類」の戦いのようなものである。これから数十年をかけて、今の電力システムは淘汰されていくのではないだろうか。

2012年05月10日「アゴラ」掲載

2016.12.14 追記

この投稿から4年半も経って、改めて調べてみると、なんとメガソーラービルがあちこちで建ち始めていることが分かった。

三宮 ミサワホームビル

でも、欧米が進んでいるんですよねえ。日本ではむかーし京セラの本社がそれをやりましたが、今でもなかなか普及していません。都内でもほとんどない。残念です。

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