「電気自動車に火力由来の電力を使っていたら意味はない」という都市伝説(後半)

EV関連






メリットその3:これからエネルギーの利用効率が向上していく

その1のエネ安保のメリットのところで、「自動車のエネルギー源を石油から天然ガスに移すというなら、何も自動車をEV化しなくても、ガス車化すればいいではないか」と訝る人もいよう。宅配便のトラックのように、天然ガス車はすでに実用化されている。

ところが、現時点でその意味はすでに失われている。というのも、最新のコンバインドサイクルが6割の発電効率を叩きだせるからである。つまり、同じ天然ガスを使うなら、そのまま自動車にぶち込むよりも、いったん火力で発電してその電気を給電したほうが、エネルギーの利用効率が倍近く高くなるのだ。当然、全自動車を天然ガス車に替えた時と、EVに替えた時では、ガスの輸入量は2:1くらいの開きがある。

しかも、次世代火力は燃料電池を組み込んだトリプルCCだ。現行のGTCCですでに効率6割だが、それにSO型燃料電池を据えたトリプル複合発電になると、7割化が可能になる。しかも、近年になって400度以下の廃熱を利用する低位熱発電の技術開発が急速に進んでいる。今ではこの廃熱で水蒸気からさらに水素を取り出せる。つまり、SOFC-GTCCにプラス廃熱利用という、実質「四重発電」も視野に入っている。

同じように、石炭火力も、石炭ガス化複合発電(IGCC)や石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)が実証段階に入りつつある。これで発電効率が6割にアップする。これらはいわゆるクリーンコールテクノロジーと呼ばれる。また、石炭のガス化利用は、低品質で低価格な「褐炭」の資源化にも繋がり、エネルギーリスクをさらに分散させる。

余談だが、燃料電池車を推進する官民一派が、将来的に水素のメイン供給源とアテにしているのがこの石炭ガス化施設である。しかし、同じ燃料電池利用なら、定置式と移動体式のどちらの利用効率が高いかは、考えるまでもない。燃料電池車も結局は水素を電力に変換してモーターで走る。ならば、オンサイトで発電してその電力をEVに回したほうが、水素を圧縮・輸送するプロセスを省ける分だけ、効率的にもコスト的にも優れている。

日本のようなエネルギー輸入大国がどちらの道を選択するべきか、官僚なら分かるはずだ。

さて、電気事業便覧には日本の全火力の詳しいプロフィールが記されているが(*だから電力会社が発電所を隠しているとか真顔で言っている一部週刊誌はバカなのだが)、それを見ると、昭和期に建てられたシンプルサイクルがまだ非常に多いことが分かる。つまり、日本の火力は次世代型への更新余地が多いので、今後の設備投資次第では、EV側のプロセスのエネルギー利用効率が急速に向上していくことが考えられる。

対して、石油自動車の効率はどうか。技術的には現行のHV車でほぼ上限にきた。これ以上の燃費改善は、外部から電気エネルギーを入れるPHVへと進化する以外にない。現実にメーカー各社はその方向で動いており、米欧勢もPHVを投入してきた。

以上のことから、今でこそ、火力に拠るEVと石油自動車のエネルギーの利用効率は同程度だが、今後は両者の差が開いていくと予想される。

メリットその4:いざという時は自動車のエネルギーを自給できる

私の知る限り誰も言っていないが、Bの「化石燃料類→火力発電→送電→EV」のプロセスだと、実は、日本は今でも自動車エネルギーの自給が可能なのである。なぜなら、日本には200億トンの石炭資源がまだ埋蔵されているからだ。日本の石炭消費量が年間で約1億7千万トンといえば、ストックの膨大さが理解できよう。しかも、IGFCなら年間3700万トンの石炭を投入すれば、その自動車エネルギー分を賄えるのである。

また、近年に話題沸騰したが、日本の領海には大量のメタンハイドレートが眠っている。現在は非可採扱いだが、量的には10兆㎥以上で、消費量の100年分はあると言われている。現在のガス価格からすると、やはり1㎥あたり5~60円以下の採取コストでないと、採算ラインではない。今の減圧法では商用化は困難かもしれないが、この辺はプロを信頼してまかせよう。

ちなみに、私は素人だが、氷状メタンが比較的浅い海底にある日本海側だったら、砂利採取船の技術を改良して巨大真空掃除機で海底を掻っ攫ったらどうかと思っている。漁協もかませる。これでメタン・魚介類・砂利を一度に採取する――とまあ、これは素人の乱暴な発想であり、あまり本気にしないでほしい。

ところで、日本海側といえば、独立総合研究所の青山繁晴氏によると、海底からメタンのプルームが立ち上っている箇所があるという。最近、経済産業省のほうでもガスチムニーを公式に事実として確認している。これなら採取できそうだ。たとえば、プルームの上にプラットホームを持ってきて、巨大なラッパ管でフタをする。輸送は能登半島までホースを使って送る。ホースは海上にブイを付けて這わせる(*プールのコースロープ方式)。ただし、ところどころ船が通行できるように、一定区間ごとに二隻の浮体でホースを持ち上げ、ブリッジを作る――とまあ、これも素人の安易な思い付きです。

このように、石炭や天然ガスは、世界的に見てまだ余裕があるだけでなく、日本国内でも比較的豊富に存在しており、EVの電力ならば自前で賄うことができる。

メリットその5:CO2の排出を大幅に減らすことができる

このメリットはあくまで、「急激な地球温暖化が環境を破壊する」「CO2がその主因またはリスク要因である」という前提に立った場合の話である。

日本の年間のCO2排出量は約13億トンだが、そのうち2億トンは自動車によるものだ。そして、石油自動車の場合、その排出を止めることはできない。しかし、EVにすればその分を火力発電所に付け替える形になる。そして、ご承知の通り、火力のCO2は、CCS(CO2回収貯留法:Carbon Dioxide Capture and Storage)で捕捉・処分可能だ。

ただし、CCSは技術的に可能化したが、コスト的にはまだ割に合わないので、当面は本格実施されそうにない。地球温暖化問題もすっかり議論が冷めた。

しかし、拙稿『CO2の資源化技術はまだ開発途上だが大いに期待したい』で述べたように、CO2を“ゴミ”としてわざわざ費用をかけて分離回収し、地中に「捨てる」のではなく、資源として積極的に再利用する研究開発も始まっている。つまり、採算のとれないCCSではなく、CCR(and Reuse or Recycle)技術だ。この方法によってCO2が資源に、経費が利益に早換わりするなら、経済性の問題はこれで解決だ。

よって、CO2の資源化の道が開かれれば、自動車をEV化した分だけ、運輸部門からCO2の排出を減らすことができる。意外や意外、環境的にもメリットがあるのだ。

自動車EV化のメリットは多い

以上のように、「電気自動車に火力由来の電力を使っていたら意味はない」という主張は間違いであり、実際には「大いに意味がある」というのが正しい。

しかも、以上はあくまで自動車を「石炭・天然ガス火力に拠るEV」に替えた場合のメリットである。EVに替えること自体のメリットはもう少し広い。

第一に、自動車のエネルギー源を多様化できる。これ自体が大きなメリットだ。別に火力だけに頼る必要はない。要は電気であればいいのだから、自然エネルギーでも原子力でもいい。つまり、EVだと、限りなくエネルギー源を多様化でき、リスクを分散できる。

ところが、内燃自動車だと、エネルギー源が石油オンリーである。中には「自動車にバイオ燃料を入れていこう」という人もいるが、需要にとても届かないことは最初からはっきりしている。広大な土地をもつブラジルやアメリカでさえ自給できないのだから、間違った選択肢だ。前にも言ったが、私はバイオ燃料の国内生産に大賛成だが、投入先はあくまで自動車以外の分野にするべきだ。それが合理的な脱石油のやり方である。

第二に、自動車のエネルギーを国産化、最終的には持続可能化できる。なんと言っても、これが最大のメリットだと私は確信する。

国内の石炭で自給できるといっても、しょせんは枯渇性資源にすぎない。石油よりははるかに長持ちするが、それでも結局は同じ道を辿る。その点、太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス、海流などを利用した発電だと、自動車のエネルギーを国産化できるメリットに留まらず、クリーンで持続可能にもなる。

長い目で見れば、やはり「EV+自然エネルギー」が正しく、石炭とガスはあくまで時間稼ぎにすぎない。持続可能ということであればクリーンなニュー原子力でもいい。巷間では、自宅で太陽光・風力発電し、その電気でEVも走らせるという、一歩未来を先取りしたユーザーさんも現れ始めた。

つまり、今の石油に拠る自動車を、石炭・天然ガス火力に拠るEVに替えていっても十分にメリットがあるが、それは通過点にすぎず、長期的には拠り所を持続可能電源に替えていくのが正しい。ストリート・ソーラーパネルや凝縮系核効果ユニットを、歩道上の急速充電器に併設すれば、将来は自動車エネルギーの地産地消ですらも夢ではない。

2013年08月29日「アゴラ」掲載16:15

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