豪雪の資源化

エネルギー問題
出典:ゆんフリー写真素材集 No.3249 雪原




昨日2月1日のNHKニュースでは、日本海の猛吹雪が報じられていました。私も初めて知ったのですが、さる豪雪地域では「雪捨て場」というものがあり、次々とやって来るトラックによって築かれた巨大な捨て雪の山が映し出されていました。これを見て、つい、思い浮かんだことを書かせていただきます。

雪国では以前から、家庭や企業などの一部プライベートの次元では、貯雪槽を作り、そこに溜めた雪を夏場の冷房に援用する試みが行われてきました。現代版の氷室のようなものですね。これをいっそうコミュニティ、否、都市の次元で実践してみてはどうか、というのがアイデアの核です。つまり、冬場に何十、何百万トンという大量の雪を保存し、夏場の地域冷房に活用するわけです。雪国の人たちはどちらにせよ生活のために除雪を強いられますので、どうせならそのゴミを再利用したいところです。

巨大貯雪ドームを建設する

具体的に述べましょう。これを実現するためには、日本海側豪雪地帯の都市部内また近郊に、半地下式の巨大な貯雪施設を作る必要があります。マイナス160度のLNGを保存する断熱壁の技術を応用すればよいでしょう。雪の搬入(*資源ですので「捨てる」とは言いません)は、トラックが建物の外壁に沿ったスロープを上り下りすることで実施します。天井は開閉式になっており、冬には自ら降雪を取り入れることもできます。

送風インフラ――パイプラインと需要側設備

この貯雪施設から都市の各所に送風用のパイプを伸ばします。幹線道路沿いにトンネル配管を作るか、既設の共同溝があればそれを利用します。これはガスパイプラインの技術を応用するだけですみます。断熱材を巻くことはむろんです。道路脇に立ち並ぶビルや商業施設などは、そこから枝管を引き込む形になるわけです。

もちろん、各建物には既設の空調システムがあります。建物ごとに空調方式が異なるので、冷風管をどう引き込むかはケース・バイ・ケースですが、後付けとして手っ取り早いのが建物の外壁にパイプを這わせ、各階に吹き出し口を設ける方法でしょう。これだと吹き出し口と反対側の壁に取り付けた換気扇を回すだけですみます。これにより、室内が負圧になり、冷風をスムーズにパイプから吸い上げます。夏場も非常に安い電気代ですみます。実は、これは地中の定熱を利用した空調システムとしても使えます。ただ、地中の熱交換能力だけでは容量の大きな建物への適用が難しいですが、この方法ならビルの冷房にも対応できます。

ちなみに、パイプを死角や目立たないところに取り付け可能であればよいのですが、できない建物の場合、見栄えもありますので、断熱材を巻いた枝管はむき出しにせず、カバーで被覆したほうがいいかもしれません。

また、貯雪施設の冷房能力は、その年の蓄雪量や夏の気温など、気候に制限されるため、必ずしも夏場を通して足りるとは限りません。需要側の空調は自家システムとの併設がよいでしょう。

「持ち込んだ雪を買います」

バカバカしいと思われるかもしれませんが、一般人が貯雪施設に雪を持ち込んだ場合、1㎥につき10円でも20円でもいいから妥当な値段をつけたほうがよいと思います。いわば雪の買い取り制度です。積極的な除雪の動機になるので、他人の家の雪下ろしを買って出る親切な人が増えるかもしれません。行政が除雪・運搬をやると、設備経費もそうですが、何よりも人件費が高くつくので、案外、全体として経費削減になるかもしれません。

地域暖房も実現する

冷房だけでは、冬になると送風インフラが遊んでしまいます。そこで、貯雪ドームと並んで、ガス式の火力発電所も併設してはどうでしょうか。火力の排熱を使って温水が作れます。電力と熱の二つを同時供給する、いわゆるコージェネレーションです。冬になると温風も作って、同じパイプラインを使い、各需要家にそれを送るわけです(*言うまでもないですが、排ガスをそのまま送るわけではありません、念のため)。こうすれば、夏場だけでなく、冬場の暖房に要するエネルギー代も節約することができると思います。

今の時代、人が滅多に通らない田舎に道路を作る類いの公共工事にそれほど意味があるとは思えませんが、このように、結果的に化石燃料費を削減できる公共工事ならば、大いにやる意味があるのではないでしょうか。

雪とはエネルギー資源である?

夏場になると、われわれ需要サイドが一斉に冷房を回すので、電力需要が極端なピークを描くことは、今ではよく知られています。ポスト3・11後は、消費者も電力供給を気にかけ、少しでも夏ピークを解消することに協力すべきなのは市民としての務めでしょう。

電力各社の火力は、この夏ピークに対応するため、石炭やLNG燃料をどんどん燃やしています。そうやって作られた電気で、われわれが家庭やオフィスのエアコンを動かしているわけです。ということは、夏場に残雪で涼むことは、燃料の節約になります。間接的に化石燃料の代わりをしていると称しても過言ではありません。しかも、冷熱源として利用するのが、冬場の厄介なゴミである豪雪ですから、まさしく一石二鳥です。

このように、雪も夏場に持ち越せば、立派なエネルギー資源です。エネルギーの地産地消の一つのあり方でしょう。このシステムを日本海側の各都市で整えていけば、かなりのピーク緩和になるのではないでしょうか。しかも、これらの地域でうまくいけば、最終的に国の次元で実施してはどうかと思います。つまり、日本海側一帯から首都圏・名古屋圏・近畿圏などに“雪エネルギー”を供給するわけです。貯雪用の「超巨大ドーム」を供給側に作るか、需要側に作るかは要検討です。前者ならば山脈越えのパイプラインが必要になりますし、後者ならば鉄道で雪を輸送しなければなりません。

どちらにせよ、夏場に冷風を作るためには大量のエネルギーがいるので、これは雪国の人たちが太平洋側の大都市に実質エネルギーを売っているのと同じ理屈です。仮に東京都心部でいったん残雪冷房のインフラを整えると、毎年、雪国から雪を買い付ける必要がでてくるので、これは立派に経済を回す仕組みともいえます。まさに「雪が降れば降るほど懐は暖まる」というわけで、これから雪国では、子供たちと犬だけでなく、大人たちまでもが喜び庭を駆け回る幸せ一杯の光景が見られるかもしれません。

2012年02月02日「アゴラ」掲載

(付記)掲載後、「馬鹿なことを言うな」というツッコミが入る一方、すぐに東京大学大学院の北島さんから、大需要(札幌)と豪雪地帯(岩見沢とか)が近傍にある札幌近郊で実現できれば面白いかも、というご意見がありました。実は記事を書いた後で調べたところ、アカデミズムでも真面目に研究されているようでして、同じ北海道内で参考になるかもしれない事例がありました。

雪冷房マンション「ウエストパレス」 資源エネルギー庁長官賞受賞

http://www.nef.or.jp/award/kako/h14/p07.html

北海道は美唄市内のマンションで、夏場の電気代が三分の一ですむそうです。今まで個人住宅や企業で雪冷房をやっている事例以外は存じていませんでした。このように、コミュニティレベルですでに実用化されていることは頼もしい限りですが、ただ百トン程度の貯雪量で24戸のシーズンが賄えるのは札幌だからであって、東京だと途中で「雪切れ」を起こしそうです。

このほかにも各地の施設で雪冷房が利用されていますが、まだ建物「個」の段階です。あとはそれをどう広域地域冷房、とくに需要密度が高く、個々が自前の貯雪場をもてない都市中心部で実現していくか、です。一般に地方の都市は大きな空きスペースが多いし、少し近郊に行くだけで土地が開けるので、貯雪場の候補地には困りませんが、まずは既存の「雪捨て場」をそのまま貯雪場にしてしまうのが手っ取り早いかもしれません。公共送風管の埋設自体は比較的費用もかからないし、工事スピードも速いでしょう。これはパイプラインに共通しています。

ただ、雪の自家消費にならない「日本海側と東京」といった組み合わせの場合、山越えのパイプラインの敷設維持費か、鉄道輸送のコストが必要ですが、果たして採算内に収まるかどうか…。一般に重量あたりもっとも低コストでの輸送を実現するのが船便なので、いっそうのことスーパータンカーを「雪捨て場兼貯雪場」に改装する手もあります(さらに「こち亀」色を増しますが)。冬に新潟で雪を積んた後、オホーツクの港で休んでもらい、6月になると川崎港まで降りてきてもらう。そこで横付けしたタンカーに送風管を繋いで、川崎を中心に横浜・品川あたりまでの地域冷房に援用するわけです。冬場は同じ送風管を使って、川崎の臨海地帯にある製鉄所や火力の排熱を使った温風を送ればよし。

電力のピークカットと化石燃料使用量の削減は、今や国民的課題ですね。

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