2013年4月6日(土)の日経新聞にこんな記事があった。
韓国中堅財閥で太陽電池の生産・販売を手掛けるハンファグループは日本で再生可能エネルギーの売電事業に参入する。年内に総出力10万kWの太陽光発電所を建設する方針。総投資額は300億円程度となる見通し。(中略)年内に事業化を目指す10万kWのうち、同社によると既に半分の5万kW分で全量買い取り制度の設備認定を受けている。すべて発電を開始すれば、年間で40億円程度の収入を見込めるとしている。(後略)
やはりそうきたか、と私が顔を歪めて得心した理由はすぐに後述するとして、まずはこの企業がいったいどれくらい儲けるのかを計算してみよう。
買い取り価格は20年間固定制なので、売電収入は最終的に約800億円と考えられる(*)。対して、導入費は文中にある通り、300億円である。
無燃料・無人運転のメガソーラーの場合、一般に導入費が総コストの8割ほどを占め、維持運営費が2割程度と言われる(つまり、ちょうど火力と比率が逆さまである)。よって、20年間の維持運営費は75億円前後と考えられるが、なんだかんだと出費がかさんでも、総コストは400億円くらいに納まると思われる。
対して、繰り返すが、その間の売上高は800億円保証である。
つまり、このハンファなる韓国企業は400億円もの純利益を手にするのである。
私は昨年に「メガソーラーとは倍のリターンが保証された実質金融商品だ」と酷評した。まさにそれを地でいく実例だ。通常400億円もの純利益を捻出しようと思えば、何千人と雇用して、血の滲むような企業努力をしなければならない。ところが、メガソーラー事業は、土地を借りて、パネルを並べるだけだ。立ち上げ時に一ヶ月程度の短期雇用が発生するが、あとは無人運営である。パネルも外国製ときている。しかも、「晴れの日は生産をするが、雨天なら止める」というような供給体制であり、そのような不良ラインから生み出される商品であっても在庫ゼロがしっかりと保証されるのだ、法律の力で。
さて、私がこの「ハンファ」の名を意識したのは、ソフトバンクの発電ベンチャーであるSBエナジーが太陽光モジュールの購入先として選んだ報道に接してからだ。彼らが利益の最大化のために中韓製パネルの導入で経費を抑えようとするのは自明の理である。
興味深いことに、ちょうどこの頃、世界各地で太陽電池メーカーの破綻が相次いでいたが、昨年8月、ハンファは逆に破綻したドイツの大手メーカー「Qセルズ」を傘下に収めた。このような逆張り積極投資も、今にしたら得心がいく。おそらく、日本のFIT法案が可決されたことで、「労せずして日本の電力消費者から大金をふんだくれる」との算段があったからだろう。
だから私は「やはり」と思ったわけだが、それからすぐあとに、今度は「韓国中部発電」なる企業が日本国内にメガソーラーを建てるというニュースが入ってきた。報道によると、同社は合計6・8万kWを建設し、1kWhあたり42円で関西電力に売電するという。しかも、この韓国企業は韓国の銀行から資金を得て、韓国製パネルを使うという。彼らはただ単に電力会社を通して日本の消費者に一方的かつ高額で電気を売りつけるだけだ。
奇妙な話ではないか。このハンファにしても、韓国中部発電にしても、われわれ日本人とは縁もゆかりもない外国企業である。そんな彼らが、雇用もせず、日本製パネルを買うこともなく、日本の電力市場からほぼノーリスクで何百億円もの純利益をせしめることができるのだ。
しかも、報道によると、韓国を筆頭に、スペインや中国企業なども次々と売電事業に参入を表明している。そりゃそうだ。こんなおいしい話を見逃すはずがない。彼らにとって、日本の電力会社と消費者は単なるカモにすぎない。
今にして思えば、私ももっとも強く警告しておくべきだった。単に商品が電気に変わっただけで、近代の市場型植民地に似た構図が隠されていないだろうか。しかも、メインが国内企業で外資がサブのため、うまくカモフラージュされている点が実に巧妙である。
(*)厳密には、太陽光パネルの寿命が尽きるまで事業は継続される。ただし、21年目以降は、電力会社は他の電源との平等性を求めるので、買い取り価格は1kWhあたり一挙に10円前後に引き下げられるだろう。それでもFIT終了後も十年以上は利益を生み出し続けるので、ハンファグループの総売電収入は900億円くらいになるはずである。
2013年04月26日「アゴラ」掲載
(再掲時付記:「一般に導入費が総コストの8割ほどを占め、維持運営費が2割程度と言われる」とちゃんと書いておいたのですが、総コスト・イニシャルコスト・ランニングコストの意味が分からない人が多数反発してきて困りましたね)
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