ガスパイプラインで日ロは「ウィンウィンの関係」になるか

エネルギー問題




ロシアの爆撃機が日本を周回した後で、あえて主張する。「日本はロシアとの間に天然ガスのパイプラインを敷設すべし」と。

ロシアの天然ガスの可採埋蔵量は世界一の48兆㎥だ。未発見や非在来型ガスも含めれば、将来的に百兆㎥を超えても不思議ではない。宗谷岬とサハリン南端間の距離はたった43キロだ。日本はたまたまパイプライン建設により、将来的には間宮海峡をこえ、この世界最大のガス資源に直接アクセスできる位置にある。長期的な安定供給源が誕生する以外にも、非常にメリットが多い。

第一、一次エネルギーのガスが安くなる。現在主流のLNGは積み出し基地で膨大な電力を使って液化し、それを専用船で輸送し受け入れ基地でまた気化させる必要がある。気体輸送によってその中間コストがごっそりと省ける。これは家庭と企業にとって事実上の“長期減税”と同じだ。

第二、東日本パイプラインは本州の太平洋側ルートを通るため、その安いエネルギーを被災各地に供給できる。今回の震災でもっとも被害を受けた岩手県宮古市から茨城県大洗まではルート上にある。建設からランニング後も、雇用創出に繋がる。東日本復興のカギを握るといえよう。

第三、ガスの対日輸出によってサハリンや極東地域が潤えば、日本製品の市場が拡大するも同じだ。遠い中東の代わりに、日本のすぐそばで自動車や電化製品の市場が拡大する。ドルではなく、互いの貨幣を直接やり取りすればよい。

第四、ロシアと一種の運命共同体になるので、エネルギー安保のみならず、国家の安全保障それ自体の向上にも寄与する。ロシアが日本からの収入に依存するようになれば、日本経済を悪化させたり、東証株を下げさせるような真似はできなくなる。ロシアとの関係強化は対米・対中外交のカードにもなる。

むろん反対意見も根強いに違いない。ロシアは未だに北方領土を不法に占拠したままで、中立条約を破っての満州での民間人虐殺や、日本軍捕虜の強制労働の事実すら認めていない。こんな平和条約も結べていない、近代からの仮想敵国に、戦略物資の供給を依存してよいのか。あるいは、ウクライナが焼きを入られたように、ロシアの政治的影響力が不当に強まるのではないか。 こういった懸念は尽きない。だが、杞憂だ。私に言わせれば、「だからこそ」なのだ。日本はロシアだけに供給を依存するわけではない。いわば「相手を選べる立場にある客」なのだ。である以上、主導権は常にこちらにある。

一方のロシアはどうせ資源を切り売りするしか能のない国だ。ロシア経済は資源輸出への依存度が極端に高く、極めて脆弱な構造をしている。原油とガスを売らないと国内経済がすぐに行き詰ってしまう。しかも昔とは違い、今は国内に選挙民を抱えている。こんな国が本当に「おそロシア」なのか? 不当な文句をつけたり、軍事力を誇示するなどしたら、点検と称してこちらからバルブを絞ればいい。供給先には事欠かない以上、日本のほうが立場は強い。

対して、彼らは需要を超えて余分に売るのは難しく、在庫を抱える羽目になる。それを捌くには結局、中国に安売りするほかなく、潜在的なライバルの立場を強化してしまう。彼らも馬鹿ではないから、日本とケンカをすれば損をするのは自分たちだと知っている。よって、ロシアがブラフをかましてきても、やせ我慢を隠してのことで、いくらでも駆け引きは可能だ。

とりあえず当初は需要の1割の輸入から始め、最終的にいつでも代替が利く3割程度に抑えておくのが賢明かもしれない。こうしてロシアを日本からの収入に依存させること。そうすればその事実自体が相手ではなく、日本側のカードとなる。こちらから仕掛けてみるのも手だ。適当に理由をつけて輸入を緊急停止すればいい。何度か締め上げれば、北方領土がどこの所属か、日本の捕虜をどう扱ったか、彼らの記憶も少しは蘇ってくるのではないか。 むろん、パイプラインの莫大な建設費用も躊躇の材料のようだ。だが、数兆円あればサハリンから東京まで敷けるし、国内の雇用創出や経済の活性化にも繋がる。だいたいLNGとの差額だけで、敷設代は20年もすれば戻ってくるのではないか。

それに何もロシアからの輸入専用ではなく、将来的に全国を網羅するパイプライングリッドの一部である。専用管は宗谷海峡の海底ラインだけで、それ以外はわれわれ自身がずっと使っていくものだ。 物事には「機」がある。日本は十年以上もこの計画を逡巡してきたが、その甲斐(?)あって、絶好のタイミングが訪れた。近年、アメリカが天然ガスの需要国から供給国へ変貌したことで世界市場に激震が走り、スポット価格が低落した。しかも、ポーランドには莫大な非在来型ガスが眠っていると考えられ、エクソンモービルが開発に着手している。

周知の通り、ロシアの主要な国家収入がパイプラインによる欧州へのガス供給であり、それが対EU外交の裏づけにもなってきた。価格下落だけでも打撃なのに、ポーランドでそれが可採化すれば、ロシアは糧道を断たれかねない。 メドベージェフの言動を聞いていると、相当焦っているのが分かる。ロシアとしては東アジア地域へ販路を拡大する他ない。だが、中国は恐ろしくしたたかで、中央アジア産ガスや自国の豊富な石炭資源をカードに使う。よって、世界有数のガス輸入国である日本に売り込み、何としても安定収入を確保したい。

ところが、今は世界的に供給過剰で、ダブついている。ようやく「買い手市場」が訪れた。この現状は、政治家がよほど無能でない限り、日本にとって有利な契約が結べる可能性を意味する。 このように、普通の外交ができるならデメリットがほとんど見当たらない計画だ。むろん、普段はロシア国民を味方につけておくことが肝要だし、政治家にそれだけの胆力が備わっているのかという心配もあるが。

2011年09月13日「アゴラ」掲載

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