メタン文明「6つのメリット」まとめ――なぜメタン文明シフトが日本を救うのか

エネルギー問題
出典:Pixabay CC0 Public Domain




これまでメタン文明のメリットについて長々と述べてきたが、ここらでそれを簡単にまとめてみたい。 



第一:資源量が豊富であり、枯渇について当面は心配する必要がない

天然ガスの可採埋蔵量は数百年、将来は一千年

これはメタン文明の最大のアドバンテージの一つである。これまでその存在は知られていたものの、ペイしないために放置されてきた非在来型ガスが技術革新によって可採化したため、近年になって様々な専門家や国際機関が相次いで天然ガスの可採埋蔵量を大幅に上方修正した。先進30カ国が加盟するIEAは、従来のガス田と非在来型資源を合わせたトータルの可採埋蔵量が「250年を超える(exceed 250 years)」と発表している。

また、最低でもこの数倍は賦存すると推定されているのが陸海域のメタンハイドレートだが、現在は非可採扱いのため埋蔵量にカウントされていない。この可採化に取り組んでいるのが日本だが、ブレイクスルーが叶えば埋蔵量は一千年を超える可能性が高い。このようにメタンに依存する文明は、石油文明よりもはるかに息が長く、安泰である。

第二:エネルギー安保が大きく向上する

ガス文明化でエネルギー安保は大きく向上する

現在、LNGの主な輸入先はインドネシア、マレーシア、オーストラリアなどだが、これらは中東よりも近場で、政情も比較的安定している。残りはロシア、ブルネイ、カタールなどが占める。現在、カナダとオーストラリアから非在来型ガスを液化して運搬しようという事業がスタートしている。このように供給ルートが多様で、分散している。よって一次エネルギーの主役を石油から天然ガスにシフトしていくと、自動的にエネ安保も向上していく。

しかも、努力次第でもっとそれを高めることも可能だ。たとえば、日ロ間のパイプライン建設により、将来的にはサハリンだけでなく東シベリアの巨大資源と直接アクセスする道も開けてくる。気体輸送ガスは簡便で価格が比較的安いだけでなく、そのルートはロシア軍が守ってくれよう。また、その安いガスが他の供給国への交渉カードにもなる。今日、LNG価格は石油準拠方式だが、それを外す方策については本文のほうで提案した。最終的には、石油と比べ物にならないほど、供給も価格も安定していくだろう。

第三:エネルギー自給率が大幅にアップする

メタン文明への移行で日本のエネルギー自給率が大幅にアップする

判明しているだけで日本周辺だけでも国内需要の百年分のメタンハイドレートが存在している。そう遠くない将来に、商用ベースに乗る掘削技術が開発されるだろう。また、大消費地の真下にある南関東ガス田は、規制さえ緩和すればすぐにでも増産可能だ。自給率向上の手段以上に、今は不況対策として利用する価値がある。その他、非在来型ガスの一種である炭層ガスも、日本は豊富だと思われる。

また、資源ガスだけでなく、バイオガスも国産として有望だ。私から自家製ガスの卸売を可能とする「ガス版再生可能エネ法」を提案した。これによりゴミの資源化に繋がると同時に、全国に「永久ガス田」が続々と誕生する。将来的には廃棄物系だけでなく、セルロース系の利用やガス生産専用植物の栽培も視野に入れることで、再生可能ガスの比率をさらに高めていくこともできよう。ここがメタン及びメタン文明の凄い点だ。

私としては、国産ガスの生産能力を高めることで、供給を「国産・ロシア産・その他産」で三分割することを提案している。「気体もの」の主流化により、価格も必ず今より手頃になるだろう。

第四:大幅な省エネが実現する

ガス文明化で大幅な省エネが実現する

自動車のEV化を進め、火力の高効率化に投資する…この二つを並行して進めることによって、日本は石油文明から最短距離で脱することができる。と同時に、最終的に一次エネルギー次元で1兆kWh以上の省エネを達成することができるというのが私の見解だ。この鍵を握るのが、やはり天然ガス及びその利用技術である。

たとえば、天然ガス火力の発電効率は新鋭基で約6割であり、将来は燃料電池などを利用することにより8割化も夢ではない。国家として大きな省エネが実現する成果を思えば、火力の高効率化と、それによる火力発電全体の入れ替えという事業に、エネルギー対策特別会計費を投入することに躊躇する理由はない。また、遅れて普及し始めるであろう太陽光・風力・地熱などの自然エネルギー発電によってその天然ガスの代替を進めていくことで、さらに発電燃料の節約に繋がっていく。

自動車のEV化に関しては、政府・経産省は従来の多様化政策を捨て、きっぱりとEV一本に絞る決断を下す必要がある。これらは非常に費用対効果の高い政策である。

第五:エネルギーとして万能性があり、より優れたシステムを構築できる

天然ガスは石油以上の万能エネルギーである

天然ガスには石油を超える汎用性・融通性・利便性がある。単に発電部門で石油・石炭火力の代替が務まるだけではなく、ほとんどエネルギーの全消費部門(運輸・家庭・業務・産業)において石油や石炭の代替を担うこともできる。とくに石炭が必須と考えられてきた製鉄業に対しても、天然ガスを使った「水素還元製鉄」が将来的に有望だ。

また、常温で安定した無毒な気体という性質のため、ガス管のネットワークを使うことによって、需要家の土地にガスが湧き出てくるのと同じ状況を安全に作ることができる。化石燃料でありながら、太陽光などのフロー系のエネルギーのように提供できるため、来たる「エネルギーの個産個消社会」との相性も非常によい。家庭用燃料電池の進歩により、これからはガス管さえあれば、マンションの部屋レベルで独自の電源と熱源を持てよう。

さらに、各地のLNG基地と連結したパイプライン網を整備することによって、エネルギーの瞬時輸送と保存の両方が可能な全国的エネルギーシステムができ上がる。これは電力と石油のメリットを兼ね備えたに等しいものだ。これに企業などの大口消費者や、バイオガス・資源ガスの生産者などが自由にアクセスできるようになれば、さらに需給一体的なエネルギーシステムへと進化する。自家製造したガスの注入が容易になれば、全国各地にバイオガスという「永久ガス田」の誕生を促すことにもなるだろう。

第六:CO2の排出を大幅に削減することができる

ガス文明化でCO2排出を大幅に削減できる

そもそも削減する必要があるのか否かという議論は横に置き、ガスの利用技術を高めていくことで、CO2の三大発生源である自動車・火力発電所・製鉄所から最終的に排出をなくすことも不可能ではない。自動車は単純にEV化すればよいとして、火力・製鉄所に対しては、CCS(CO2回収貯留法)ならぬCCR(CO2回収再利用法)を適用する。

今やCO2は様々な使い道のある立派な資源だ。たとえば、わずかな水素を足すことでプラスチック原料を製造できる。高価な石油を精製・改変しなくても、「排ガス」というゴミから作ることができるのだ。この方法は経済的に無理のないCO2排出削減策であるだけでなく、ナフサを減産せしめる脱石油路線ともマッチングする。これで化石エネルギーを使用し続けることに対する最大の懸念が取り除かれることになる。是非論は横に置き、メタン文明は地球温暖化対策としても有効である。

化石エネルギー文明の最終形態としてのメタン文明

以上、第一から第三が「資源上のメリット」とすれば、第四から第六は「利用上のメリット」ということができる。もっとも、メリットといっても、座して待っていて実現するわけではなく、技術開発やインフラ整備などの点で、われわれの努力余地部分も大きい。メリットとしてはその他にも、「より省資源な社会になる」「化石燃料の輸入費を大幅に減らせる」等がある。

このように、メタンは決して石油の代用品ではなく、より優れた特徴をもつエネルギー源である。よって、石油文明からメタン文明へのシフトは、文明の進歩であり進化であると考えられる。これは、エネルギー源が「固体(石炭)→流体(石油)→気体(ガス)」と移っていると思えば、そう不思議な話でもない。

これまで人類は「化石エネルギー文明」のフレーム内で、石炭文明から石油文明へと移行した経験をもつ。ならば次は「ガス文明」の番というわけだ。天然ガスはいろいろ種類があるが、王者は主成分のメタンである。このメタンとは、炭素原子の「四つ手」に水素原子が結合しただけの、もっとも単純な炭化水素だ。そういう意味で、メタン文明は“化石エネルギー文明の最終形態”に他ならない。

しかも、日本の場合、現在の技術的・経済的・社会的条件から考えて、脱石油を進めていくと、必然的に天然ガス(メタン)が一次エネ比でメイン化していくと予測される。どうやら、石油文明からいきなり「持続可能文明」へと一足飛ぶのは無理らしいのである。エネルギーの永久自給を達成する前に、いったんメタン文明を経由しなければならない宿命のようだ。たしかに、地熱、太陽光、風力、バイオ燃料、そしてクリーンで持続可能なニュー原子力…こういった新エネルギーの開発と量的拡大には時間がかかる。だが、いったん安定したメタン文明へと落ち着くことで、われわれはそのための十分な時間的猶予を手にすることができる。メタン文明はしょせん持続可能ではないが、「エネルギーの永久自給国」というゴールへの移行をアシストしてくれるのもまた事実である。

なぜメタン文明シフトが日本を救うのか

さて、ずいぶん長い話になってしまったので、エネルギー問題に興味のある新しい読者のためにも、「そもそもどうして石油文明からサヨナラしなければならないの?」という単純な疑問に、今一度、答えておきたい。これまでの流れを簡単におさらいすると同時に、従来から読んでいただいている人のためにも、新しい解説も付け足しておこう。

近年、新興国や途上国の猛烈な経済成長により、エネルギー需要が急増している。とりわけモータリゼーションによって石油消費が増加している。自動車がガソリンの消費を1ℓ増やすごとに、原油のニーズは4ℓ増える。IEA(国際エネルギー機関)によると、先進国の石油需要は05年をピークにすでに微減に転じているが、新興国・途上国はそれ以上の勢いでニーズを増やし、すでに昨年の段階で両者の消費量は逆転した。

こういった非OECD諸国はまだモータリゼーションの途上にあり、世界の自動車市場はこれからも拡大していく。これは石油消費を固定化させる仕組みであり、いったん整えたインフラもそう簡単には変えられない。しかも、世界人口は今世紀後半まで急増し続けるので、先進国型のライフスタイルを目指す予備軍がまだ続々とあとに控えている。

対して、供給のほうでは、イージーオイルが確実に減少し、新規の石油開発は深海底や非在来型などが主流になりつつある。今後は、この種の“手間賃のかかる石油”の割合が増加し、急増する需要を埋めていくことになる。よって、世界的な景気後退などにより調整局面はあるものの、石油の上昇トレンド自体は構造的だ。需給逼迫によるファンダメンタルズの切り上げに加え、地政学・投機リスク次第ではあっという間にプレミアムが付くことも、すでに数年前に実証済みである。この「新石油危機」は、実は石油価格の急騰が始まった2000年代後半からすでに始まっていると見なすのが正しい。しかも、かつての石油危機と根本的に異なるのは、今回の危機には終わりがないという点である。

新石油危機はエネルギー自給率と利用効率、貿易収支の問題として消費各国に降りかかっている。おそらく、OECD諸国の中で最終的に最大の打撃を受けるのが韓国であり、二番目が日本である。韓国の没落は彼ら自身が食い止めればよいとして、問題はわが国である。日本は通貨が強く、世界最大の債権国であり、かなりの資源権益も確保しているので、しぶとく持ちこたえることができる。ただし、そのせいで人々の危機感が薄く、社会の構造改革も遅れるとしたら、果たしてこれは幸か不幸か。なにしろ今後、数十年というスパンで見た場合、累計で数百兆円に及ぶ国富流出に繋がる可能性が高いのだ。これは少子高齢化や財政問題と相まって、日本を貧困化させる大きな要因の一つと考えられる。

すでにその兆候も現れた。昨年の貿易収支は赤字に転落した。これは石油の高騰が主因である。ただし、所得収支の黒字幅が大きいので、経常収支としてはまだなんとか黒字を確保している。強い円ゆえに日本はこれからも新興国や途上国からの輸入を増やしていくが、一方で製造業は付加価値の低い順から衰退していく可能性が高い。所得収支で食べていく「投資立国」に活路を見出す向きもある。たしかに、日本は現に最大の債権国であり、円高の今はさらなるチャンスに違いない。ただ、対外直接投資の収益率は英米に比べてかなり低いようだ。また、日本の国際的地位というものを客観的に見る必要もある。

かつて英米は似た局面に立った際、金融帝国化していった。これは基軸通貨国特権に負う部分も大きいという。仮に日本が赤字国に転落しても、大国らしい政治力や軍事などのパワー、人口増などによる潜在的な経済成長力といった、要は「信認」さえあれば海外からの資本を引き付け、経済を回すことができる。だが、将来性がない、魅力がないと見なされれば、人々が基軸通貨国でない日本の通貨や債権を欲しがる道理がない。

また、忘れてはならないのが、日本特有の巨大地震のリスクである。ここ数十年で確率が高いとされているのが関東大震災や、静岡から四国沖までの三連動型地震だが、これらは何十兆円という被害額と考えられる。その際には、日本は対外投資を引き上げることを余儀なくされる。巨額の対外債権といえども、どうしてもこのリスクと相殺される面もある。そうすると、結局、日本が先進国また富裕国に留まるための方法といえば、「イノベーション」以外にないのではないだろうか。つまり、知価創造とカイゼンを止めた時、またそれを下支えする教育・研究開発投資を止めた時、日本の真の没落が始まるに違いない。

そういう意味において、この「メタン文明シフト」は、日本の衰退を食い止め、中興を促すための有効な策ではないかと自負している。なぜなら、「新石油危機の回避」と「イノベーション」の両方の性質を併せ持つ大戦略だからである。

2012年03月07日「アゴラ」掲載

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