ガス文明化でCO2排出を大幅に削減できる

エネルギー問題
出典:Pixabay CC0 Public Domain global-warming image






メタン文明 第6のメリット

いよいよメタン文明のもつ「6つのメリット」の最後である。

突然だが、われわれの社会はなぜCO2を排出するのだろうか。意外とこの根本的な問いにサッと答えられる人が少ない。知識人でさえ「人や企業が活動すると自然と排出される」と思い込んでいる人が多い。

答えは「化石燃料を燃やすから」である。

温室効果ガスは6種類あるが、日本が排出するうち94%は炭酸ガスである。また、同ガスの発生原因のほとんどが化石燃料の燃焼に拠るものだ。以下の表を見てほしい。07年排出源内訳

このように、排出の一部は石灰などの製造(工業プロセス)やゴミの焼却(廃棄物)などが原因であるが、それ以外(93・5%)はすべてエネルギー起源である。ということは、約88%の確率で、温暖化対策(温室効果ガス削減)と化石燃料の使用削減が重複するのだ。とくにCO2の排出削減とは「ほぼイコール」と見なしてよい。そもそも、ほとんどの排出量自体、化石燃料の使用量に排出係数を掛けることによって算定されている。

おそらく、環境派の人たちにとって、ここがメタン文明の最大のネックに違いない。「結局は化石エネルギーを使うわけだから、CO2削減はあまり期待できない」というわけだ。だから、こういった人たちはあくまで化石燃料の使用を止めて、自然エネルギーや原子力、またその組み合わせに答えを求めようとする。

地球温暖化問題に対する私の考えは、すでに「鳩山公約は“環境ベルサイユ条約”と化す」で述べた。私自身は、地球温暖化人為説の真偽に関しては論争中であると解釈しているが、CO2の排出が温暖化のリスク要因であることも確かであり、発生を抑制するに越したことはないとも考えている。合理性を欠く鳩山公約自体は断固として撤回すべきだとしても、長期的にCO2の排出量を削減していくことに関しては、未だ国際社会の流れであるといってよい。先進各国は2050年までに90年度比でそれを80%以上削減することでおおむね合意している。日本政府もまた同様の閣議決定をした。である以上、人為起源のCO2が果たして地球温暖化の主因であるか否かという問題の是非は横へ置いて、今はやらざるをえないというのが現実である。

今言ったように、温室効果ガス削減と化石燃料の使用削減は約88%の確立でイコールである。つまり、「脱化石エネルギー」がわれわれの答えとなる。ということは、誰であれ「石油文明の次としてメタン文明を選ぶのは妥当ではない」と訝るはずだ。「ここは一気に脱化石文明を目指すべきではないか」と。

ところがである。知恵と工夫次第では、メタン文明への移行によって、われわれは「脱化石文明」を選択するのに近いほど、CO2の排出を削減することができるのだ。一般に、天然ガスが「環境に優しい」と言われる理由は、燃やした時のCO2排出量が石炭の約半分であり、石油の四分の三程度だからである。だが、私がこれから述べていくのは、そういう世間一般で言い古されている常識論ではなく、もっと革新的なアイデアである。

自動車のEV化でまずは一つの巨大排出源を根絶

私は今まで石油文明を脱するための中核策として「自動車のEV化」を訴えてきた。これによって生じる新規電力需要は、まず天然ガス火力で支え、次に遅れて普及するであろう自然エネルギー発電によってその天然ガスの代替をしていくのが妥当である、と。

以下の表を見てほしい。運輸部門のCO2排出量の9割が自動車から排出されている。よって、運輸部門における炭酸ガス排出削減策とは、事実上「自動車対策」のことに他ならない。

運輸部門排出内訳

われわれにとって自動車とは、もっとも身近なCO2の巨大排出源である。自動車のEV化によって、まずはこの排出源を根絶できる。一方、このような対策は、その分のエネルギーを「事業用発電」に転嫁することになる。よって、いかに事業用発電からCO2排出を減らしていくかが、いっそう重要となる。

CO2回収貯留法(CCS)は今のところ割に合わない

エネルギー転換部門としての内訳とCO2排出量は、以下の表のようになる。ご覧の通り4億トン以上を排出する事業用発電(火力発電)は、日本最大のCO2発生源である。

エネルギー転換部門排出内訳

03年から数年間の平均値をとると、この部門の排出比は国全体の約30%である。よって火力発電だけで国全体の約28%のCO2を排出している計算(*原発事故前)になる。

一般に、この排出を根絶する方法として期待されているのが、CO2回収貯留法(CCS:Carbon Dioxide Capture and Storage)である。これは煙突の排ガスからCO2を分離回収し、地下に封印するものだ。回収方法としては、たとえば、火力や製鉄所の排ガスを吸収塔に送り込み、「アミン」という有機化合物を溶かした液体を吹き付けてCO2を吸収し、それを再生塔で過熱してCO2のみを取り出す技術がある。三菱重工はこの方法によってほぼ100%の回収に成功している。また、最近、急速に進歩しつつある「CO2分離膜」を活用することによって、もっと簡単に分離する方法も開けてきた。

こうして回収した純粋CO2を、キャップロック(蓋の役割をする岩石層)下の地底などに圧力をかけて送り込み、封じ込める。CO2はそこで一種の臨界状態(気体でも液体でもない状態)になり、最終的に化石化するという。アメリカではそれを古い油田に注入し、原油を回収する一石二鳥の方法までが試されている。日本においても、陸上はともかく、近海底には十分な貯留キャパシティがあることが分かっている。むろん、地中に閉じ込めたつもりのCO2が地震等で地上に噴出すれば有毒ガス化するが、先行国が継続している観測によれば、今のところその恐れもないという。

さて、仮にこの回収プラントを国内の火力発電所・製鉄所・ゴミ焼却施設などに片っ端から取り付けていった場合、どうなるのだろうか。温室効果ガスインベントリオフィス資料によると、07年に各施設は以下の排出をしている。

火力発電所…4億1578万トン

製鉄所…1億5949万トン

ゴミ焼却施設…3021万トン

合わせて6億トン以上である。これは同年の総排出量の44%に相当する。つまり、回収プラントの装備によって、07年度比で一気に44%の排出削減が実現するのだ。いきなり鳩山氏の掲げた中期目標達成である。それどころか“排出権黒字”ではないか。

では、CO2の排出削減問題は、このCCS技術によって万事、解決なのだろうか。ところが、そうは問屋が卸さないのである。なぜなら、この回収貯留法は技術的に確立されているという話であって、経済的に確立されているわけではないからだ。非常に手間がかかるため、経済産業省の資料によると、全体コストがCO2トンあたりの処理で6~8千円もかかる。とくに回収コストが半分を超すという。これでは石炭や鉄鉱石そのものの値段とさして違わない。燃料使用量に応じてCO2も排出されることから、事業者から見た場合、このような処理費用の追加は、燃料経費が一気に倍になったのと同じ意味を持つ。

この莫大なコストを、いったい誰が負担するのだろうか。事業者としては、まさか赤字操業はできない。当然、製品価格に転嫁される。つまり、電力と鉄鋼を消費し、ゴミ処理を依頼する側――まさにわれわれだ――の負担となるのだ。鉄鋼は即、海外との国際競争力に響くし、この電力を使うすべての日本企業も余計な負担を強いられることになるだろう。これではとうてい経済的に引き合わない。このように、技術的に可能ということと、経済的に可能ということは、別個の問題なのだ。

CO2を資源として利用するCCR技術

このとんでもないコストをどうするかがネックである。ここで登場するのが新たな天然ガス火力であり、石炭火力だ。

現在、SO型燃料電池を先頭とし、その高温排熱でガスタービンや蒸気タービンを回す「トリプル複合発電」の天然ガス火力が実証段階に入っている。このように、天然ガスを最初に燃料電池に投入する方式だと、メタンの改質によって生じた水素は電池部分に行くため、排ガスは最初から炭酸ガスのみとなる。つまり、吸収液や分離膜を使った高コストな分離工程が省けるのだ。

また、同じように、石炭火力も、石炭ガス化複合発電(IGCC)や石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)が実証段階に入りつつある。これらはいわゆるクリーンコールテクノロジーともいわれる。石炭をガス化するIGCCでは、すでに燃焼前回収(PC法)によるCO2回収実績がある。一方、IGFCは、天然ガストリプル発電と同じように上流部分で燃料電池を使うので、やはり排ガスは最初から炭酸ガスのみであり、分離行程が必要ない。

このように、近未来の火力は非常に簡単にCO2を回収できる。要は、ただ排ガスを圧縮するだけなのである。しかし、回収したCO2をわざわざコストをかけて地下に貯留していたのでは、はやり余計なコストがかかる。ここで日本の技術はもうひと踏ん張りだ。

実は貯留する(=捨てる)必要などないのだ。というのも、今やCO2を資源化する方法が続々と見つけられているからである。たとえば、三井化学はCO2を特殊な触媒でメタノールに変えるプラントを完成させた。メタノールはプラスチック原料や燃料用途など、応用範囲が広い。これはCO2の工業原料化の成功例である。ちなみに、この三井のプラントは、電力のほかに、原材料として炭酸ガス20に対して水素3を必要とする。この三つをオンサイトで同時供給できるものこそ、燃料電池を使った火力に他ならない。このように、プラスチック原料製造工場と新型火力は、たまたま相性がぴったりなのだ。

これは従来のように、CO2という“ゴミ”をわざわざ費用をかけて分離回収し、地中に「捨てる」のではなく、資源として積極的に再利用する試みだ。つまり、採算のとれないCCS(and Storage)ではなく、CCR(and Reuse)技術と呼べよう。この方法によってCO2が資源に、経費が利益に早換わりするなら、経済性の問題はこれで解決だ。

貴重な資源としてのCO2

しかも、なにもCCR技術を樹脂製造に限定する必要はない。メタノールはそのまま燃料電池の燃料として利用することができる。また、海外ではすでに火力の排ガスを閉鎖系の光合成藻類の培養槽に導き、バイオ燃料を製造する試みが始まっている。CO2は植物性プランクトンの立派な成長促進剤なのである。

また、CO2は天然ガスや石油の増産用としても使える。たとえば、回収率の落ちた油田への圧入用気体としてすでに用いられている。日本ならば炭層ガス生産のための圧入用気体としての用途が有望である。これはコールベッドメタン(石炭層が抱えているメタン)と呼ばれる非在来型ガスの一種だが、炭層はCO2のほうが吸着しやすい性質があるため、CO2を地下に圧入することによって、逆に炭層からメタンを剥がすことができるのだ。

このように、CO2の資源化技術によって、将来的に火力発電は「プラスチック・バイオ燃料製造工場」と一体化可能なのであり、非在来型の天然ガス生産にも利用できるのだ。こうなると高濃度の炭酸ガスは、捨てるのがもったいない立派な工業原料であり、資源と言わざるをえない。もはや厄介者どころか、引く手あまたである。CCSだとコストをかけて“ゴミ”を処分する方法だが、CCRだと逆にお金に化ける可能性すらある。

製鉄も脱炭素化し、CO2三大排出源を根絶

このように、技術の進歩によって、火力からのCO2排出量をノーコスト又はプラスコストでゼロにできる可能性もあるのだ。むろん、空想や願望を話しているのではなく、すでに実現している技術同士を組み合わせる話をしているにすぎない。もっとも、個産個消テクノロジーの急激な発達によって、私は最終的に事業用発電自体の存続を危ぶんでいるので、火力から回収したCO2の資源利用については、将来的に減少していくかもしれない。

同じ理屈は、前回の記事で紹介した、「水素還元法」を使った将来的な「天然ガス製鉄」にも当てはまる。最初に天然ガスを改質して水素を取り出すと、排ガスは最初からCO2又はCOだけだ。これはメタノールに変えるなど資源利用し、水素は酸化鉄の還元剤として利用する。これで天然ガス製鉄でも、新型火力と同様のCO2利用が可能となる。

どうだろう、以上のように、メタン文明へのシフトによって、CO2の三大発生源である自動車・火力発電所・製鉄所を見事に脱炭素化することができるではないか。温室効果ガスインベントリオフィス資料によると、繰り返すが、火力発電所が4億1578万トン、自動車が2億1765万トン、そして鉄鋼業が1億5949万トンである(*すべて07年の数値)。合計すると約8億トンだ。一方、国全体のそれは約13億トンなので、いきなり60%の排出削減の達成である。ちなみに、脱石油によって、化学産業の排出する5225万トンもここに付け加えられていくだろうから、ますます削減が進展するだろう。

福田内閣が閣議決定した「低炭素社会づくり行動計画」では、50年度までに排出量を60~80%削減することを掲げたが、「ガス文明化」によって目標達成が大幅に前倒しできるのではないだろうか。

地球温暖化対策としても有効なメタン文明

以上、CO2の排出を根本的に減らすための驚くべきカラクリを説明してきた。

現在、政府が温暖化対策のメインと位置づけているのが、家庭部門と業務部門の省エネだ。両部門は90年度の基準年後、4割もエネルギー消費を増やしているので省エネ余地も大きいに違いない、というのがその理由だ。しかし、私の考えは、CO2を直接排出している「発生源」に対するゼロ排気化策を一番手とし、エネルギーの利用効率を改善する省エネ策はあくまで二番手とするものである。三大排出源を根絶できるメタン文明シフトは、まさに有効な地球温暖化対策でもある。そして、これこそが「第六のメリット」だ。

一般に、天然ガスは「燃やした時のCO2排出量が石炭や石油に比べて少ないから」という理由で、「環境に優しい」などと言われている。識者も天然ガスによる対策として、そのようなありきたりな方法しか言っていない。だが、そういう消極的な方法ではなく、上に例示してきたように、やり方次第ではCO2排出削減のために「こちらから打って出る」策へと応用することもできるのだ。しかも、従来のCCSのように、削減のために自らに無理や犠牲を強いる必要はなく、経済的メリット追求の結果として同時にそれも実現できる点が従来策とはまったく異なる。

おそらく、石油文明からメタン文明への移行に対して、最大の懸念とされているのが「地球温暖化対策に逆行するのではないか」という点だ。ゆえに「依然として化石エネルギーをメインとするガス文明化は低炭素と矛盾する」と信じられている。ところがどっこい、現実にはガス文明化によって、CO2はかくも大幅に削減できるというのが事実である。すべては天然ガスを使いこなす知恵と工夫とテクノロジー次第なのだ。

2012年03月02日「アゴラ」掲載

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