急速充電器の速やかな整備が「ドミノの最初のひと押し」になる

EV関連




この記事は、前回の「ピンチをチャンスに変えれば次の時代は日本がリードできるかもしれない」の、実質的な続編なので、まずはそちらのほうから目を通していただければ助かります。



EVの本格普及を妨げる最大の要因とは?

昨年の投稿で私はこう述べた。

これまで現行車の代替としてバイオ燃料車・燃料電池車・天然ガス車がふさわしくないと論じてきたが、だからといってEVの将来性までが約束されるわけではない。現に、EVを購入したいというユーザーは少ない。その理由は、「価格が高い」「走行距離が短い」「街中の充電場所が少ない」の三つに集約される。比較的高価な上、運転中は電欠の不安に苛まれるとしたら、ユーザーの食指が動くはずがない。これらの欠点を克服しない限り、本格的な普及は望めない。

では、実際にこの三つの欠点が解消される日は来るのだろうか? 来るとすれば、いつ頃になるのだろうか。おそらく、その時がEVの本格的な普及の始まりとなる。

まず、EVの「車体価格の高さ」と「走行距離の短さ」は、何度も言うようにバッテリーの性能とコストにかかっている。幸い、NEDOなどは、20年度にはバッテリーの価格が今の5分の1から10分の1になると予測している。つまり、急激な量産効果等によって、この二つの欠点が近い将来に解消されることは、ほぼ確実と考えてよい。

家庭・業務用と車載用の蓄電池は、本格的な市場が生まれてまだ日が浅い。よって、性能やコストが改善していけば、市場そのものの拡大に繋がっていく。この正のスパイラルがまた投資を呼び込むので、今後、蓄電池の分野は急速に成長していくものと思われる。

私は予言者ではないので、具体的に何年後と断言することは難しい。ただ、今から5年後くらいには、以下の二つの条件が達成されると予想しても差し支えないと思う。

1・EVの車体価格が(補助金なしで)同型の内燃車にほぼ並ぶ。

2・乗用車クラスのEVで走行距離が500キロに達する。

消費者は何らかの「メリット」がないと商品を買わない。

1の条件が達成されることで、EVの経済性は内燃車のそれを圧倒する。ランニングコストが内燃車の半分以下であることから、買ったその瞬間から両者の維持費は開く一方ということになる。

また、2の条件が達成されることで、致命的とされる欠点もなくなる。

中には「EVが普及するためには性能面で内燃車を完全に凌駕していなければならない」と考える人もいるようだが、それは思い過ごしだ。仮にその考えが正しければ、海外市場において常に日本製品が中韓製品を圧倒していなければおかしい理屈になる。実際にその逆のケースも多いことから、消費者は製品の購入に際して、性能だけでなく経済性とのバランスで判断していることが分かる。

そして相対的に経済的なメリットが高ければ消費者の食指は動くようだ。

しかし、「街中の充電場所が少ない」という三つ目の欠点はどうなのか。ある意味、もっとも不便を決定付けている理由がこれである。このせいで車庫付き一戸建ての所有者以外は実質的にEVに手が出せない。つまり、都会のユーザーの多くを切り捨てる形になる。また、トラックやタクシーなどの業務用車両のEVへの転換も阻んでいる。さらに、一戸建ての所有者であっても、走行の自由度や行動半径に著しく制限を受ける形になる。

よって、仮に1と2の条件が近未来に達成されても、充電インフラがまともに整っていなければ、大半の消費者はEVの購入を躊躇せざるをえない。逆にいえば、整ってさえいれば、経済的な動機が生じ次第、何の憂いもなく買うことができる。つまり、結局、EVの本格的な普及はこの三つ目の欠点の解消にかかっていると言っても過言ではない。

なぜ急速充電器のインフラが日本の方向性を決定付けるのか?

したがって、あらゆる意味で鍵を握っているのは充電インフラの整備ではないか。これが「ドミノの最初のひと押し」になると思われる。それは以下のような意味だ。

もともと、長期的な目標として、人類は資源ストックの食い潰しに終止符を打ち、持続可能なエネルギーシステムへと移行して、いずれは「エネルギーの永久自給社会」へと脱皮していかねばならない宿命にある。それは「脱化石燃料」とほとんど同義語だ。このためには何よりもまず「脱石油」を成し遂げねばならない。これには「国家の生存のため」という切実な理由も別にある。なぜなら、脱石油戦略を実施しない限り、日本の衰退は必至だと予想されるからだ。そして、脱石油の要となる対策が「自動車のEV化」である。

よって、考えるべきは「EVを普及させるためにはどうしたらよいか」だ。しかし、全体主義国家ではあるまいし、脱石油戦略などと称して消費者に無理やりEVを買わせることはできない。普及するか否かは、あくまで市場が決めることである。

消費者のマインドは一貫している。メリットが大きいと買う。又はデメリットが大きいと買わない。社会にとってのEV普及のメリットは、その省エネルギー性と省資源性にあるが、消費者にとってのメリットは主に経済的なものだ。よって、消費者が経済的動機によってEVを購入するようになって初めて、その普及が本物になったと言える。

その普及の条件が、今言ったように、三つの欠点を解消することである。そのうち、「車体価格の高さ」と「走行距離の短さ」は、企業努力で遠からず解消される。だから、焦点はあくまで「街中の充電場所が少ない」という欠点を解消することなのである。これは具体的には「急速充電器が使い易い形で至るところにある」という状態を指す。

この欠点さえ解消すれば、消費者はいずれ経済的動機からEVを買うようになる。よって、あとは市場力だけでEVが普及していくだろう。それに伴って、石油消費量もまた急減していく(ただし、そのままでは国内の石油精製元売各社が倒産に追い込まれるので、前にも言ったがバイオ燃料の生産業者=永久油田の権益業者への転換を支援すべきだ)。そしてこのような脱石油の進展が、ひいては脱化石燃料の道へと繋がり、次なる持続可能なエネルギーシステム(又は持続可能文明)へと至る突破口となるのである…。

だから、興味深いことに、目的から逆算していくと、急速充電器の速やかな整備が「ドミノの最初のひと押し」になるのである。

しかし、問題は、全国的な充電インフラの整備が、明らかにメーカーの努力を超えた領域にある点だ。だから、それを迅速に普及させるためには、どうしても公的機関が何らかの形で支援しなければならない。つまり、政府・役所・自治体などが確固とした目的意識をもって自ら整備に乗り出すか、ないしは事業者に助成するかの、どちらかの政策が必要である。しかし、公的機関の重い腰を上げさせることとなると大変だ。だが、組織といえど、しょせんは「人」の集まりである。そのためには、人心を動かす優れた「構想」が求められる。だから、私なりにその「動機付け」に尽力してきたつもりだった。

そういう意味で、先ごろ経済産業省が充電インフラの整備に約1千億円を投じる決断を下して世間をアッと驚かせたことは、英断であると言わざるをえない。彼らは成り行きを傍観せず、まさに政策手腕を発揮して、その「ドミノの最初のひと押し」に手をつけたのだ。前回言ったように、私は経済官僚の先見の明を称えたい。同省の政策は、EVの本格的な普及を妨げる最後の障害を取り除くことに大きな貢献をするものだ。

しかし、正直なところ、どうも中途半端という印象が拭えないのも事実だ。どうせ充電インフラを整備するからには、もっと徹底したほうがいい。しかも、それは「本命」に値する、ど真ん中、どストライクのものでなければならない。

次回はこの場を借りて私なりに考えたプランを提案させていただきたいと思います。

2013年02月12日「アゴラ」掲載

(再掲時付記:「今から5年後」つまり、2018年には、上記の二つの条件が達成されているでしょうか。見守りたい)

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