ガス文明化で大幅な省エネが実現する

エネルギー問題
出典 仙台市ガス局






メタン文明 第4のメリット

日本のエネルギーの需給現状や構造から推察するに、エネルギー源を石油から天然ガスに切り替え、かつその天然ガスの利用技術を洗練させることによって、最終的に原発150基分の年間発電量に匹敵する省エネを達成することができるかもしれない、というのが私の見解である。以下、「日本国のエネルギーの流れと『超省エネ法』の紹介」で既に述べたことと重複する部分が少なくないが、これをメタン文明のもつ「6つのメリット」のうちの第四番目として解説していきたい。

そのために、資源エネルギー庁の総合エネルギー統計などを参考にしながら、まずは日本の大まかなエネルギーフローを説明しなければならない。

09年度の一次エネルギー供給は21752PJ(ペタジュール)、すなわち6兆0422億kWhである。しかしながら、石油や天然ガスを国内に供給する際には「在庫の取り崩し」というプラス要因があり、また「石油製品の輸出分」というマイナス要因がある。これらを調節すると、純供給は20893PJ=5兆8036億kWhとなる。電力需要が約1兆kWhであるから、われわれの社会や産業を動かし、今の生活水準を維持するためには、その5・8倍もの総エネルギーが必要だということである。

さて、この5・8兆kWhの一次エネルギーはいったん「エネルギー転換部門」に回され、消費者が実際に利用しやすい「二次エネルギー」へと変えられる。この“エネルギー転換”の定義は「国内供給された際のエネルギー源と異なるエネルギー源を製造・生成すること」である。要は、火力発電所が石炭などを燃やして電力を作ったり、石油産業が原油をガソリンや軽油などの品目に精製したりすることを意味している。

こうして転換された二次エネルギーが各消費部門へと回されるのだが、以下の表をよく見てほしい、全部門を足しても約4兆kWhにすぎない。つまり、エネルギー転換部門への入力が5・8兆kWhで、出力が4兆kWhなのである。差し引き1・8兆kWhは「転換ロス」だ。ただ、原油の精製は比較的エネルギーを要しない。LNGの都市ガスへの気化にも、ほとんど必要ない。ロスの約8割が「事業用発電」から生じているのだ。

09年度エネルギー需給表

二つの省エネ余地部分

よって、当然ながら、省エネ余地として第一に焦点を当てるべきは、この「事業用発電」である。ちなみに、これは、電力十社と、彼らに電気を卸している卸電気事業者が運営する発電所また発電行為を指している。それ以外の発電は自家用発電に分類されている。

これ以外にも、実はもう一つ、大きな省エネ余地が隠されている。それが表にあるように、電化率が他と比べて極端に遅れている運輸部門、とりわけその9割を占める「自動車」である。

一般に内燃車のエネルギー利用効率は悪く、通常は2割程度、ディーゼルやハイブリッドでも3割程度と言われている。なぜなら、鉄の塊のような重いエンジンを搭載し、車軸を回す際に摩擦の多いピストン・カム・トランスミッションなどを介するためだ。しかも、石油の掘削・輸送・精製・配送や、エンジンの製造までも含めて見ると、環境負荷が非常に大きい。一方で、内燃車が巨大雇用を支えているのもまた事実である。エネルギーや金属資源が希少化していくこれからの時代にあって、このような製品を今後どうするかは社会全体で考えねばならない問題だが、私個人は「マニア市場向け製品として残して、基本的には無くすのが正しい」と結論している。なぜなら、長期的に見た場合、内燃車はやはり資源の無限性を無意識に前提した上での非持続性製品と思えるからだ。

その省エネ方法

簡単にいえば、対策は、自動車のEV化と、火力発電の効率改善を同時に進めるというものだ。鍵を握るのが、天然ガスであり、またそれを利用した火力発電である。電力の需給は一致していなければならない。自動車の急速なEV化により、燃料消費量が減る一方で、新規の電力需要が発生する。これに素早く、確実に対応できるのが天然ガス火力である。つまり、天然ガス火力でEV用電力を支えつつ、その火力自体の効率もアップさせていくわけだ。ちなみに、石炭火力はガス火力ほど効率を上げられないし、環境負荷も高いので、手段としてはあくまで二番手である。

まずは、自動車のEV化のほうから見てみよう。自動車の原動機は、「自身を含めたある重量を移動させる仕事」をしている。モーターは供給された電気エネルギーの9割以上を動力に変えることができるので、一般にEVのほうが内燃車よりも少ないエネルギーで人やモノを運ぶことができる。しかも、部品点数が少なく、重量も同クラスの内燃車と比較して軽いため、社会全体としても省資源に繋がる。よって、EVへの転換を進めていくだけでも、運輸部門単独でのエネルギー利用効率は改善していく。ところが、総合効率の算出は発電端を含めねばならない。現在の火力の平均発電効率は40%なので、EVのプラグに電気が届いた時点で、総合効率はそれ以下になっている。

本来なら、EVの電力は自然エネルギー由来とするのがベターだ。そうすれば発電端から消費端までCO2も発生しない。だが、その整備には時間がかかることも確かだ。したがって、天然ガスと自然エネルギーで同時にEVのエネルギーを支え始めても、前者の占める比率のほうが必然的に高くなると思われる。つまり、現実には、天然ガスで素早く石油系燃料の代替をし、のちに太陽光・風力・地熱などで、その天然ガスの代替をゆっくり着実に行っていく、という時系列になりそうだ。

次に、火力発電の効率改善のほうを見てみよう。エネルギー転換ロスの8割を占める事業用発電からは、1・4兆kWh以上の無駄が出ている計算になる。この部分の省エネの鍵は、火力の高効率化が握っている。とりわけ期待されるのが、技術革新の目覚しい天然ガス火力だ。最新鋭の1600度級コンバインドサイクルの発電効率は61%に届いている。効率40%の火力と比較すると、同じ燃料で1・5倍もの発電ができるわけだ。高温型燃料電池にガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたトリプル発電ならば、効率70%以上になる。このように、天然ガス火力の技術の発展は目覚しく、最終的にメタンのもつエネルギーの約8割を電力に変換することができるだろう。この石炭版(石炭ガス化燃料電池複合発電)でも60%以上が期待できる。この種の技術は別に夢物語ではなく、すでに実証段階に入っている。政府による政策・資金面のバックアップが望まれる。

では、この二つの省エネ対策を組み合わせると、どうなるだろうか。まず、内燃車からEVへの転換により、最終的に約0・9億klの石油消費を無くすことができる。その代わりに3千億kWh弱の新規電力需要が生じるが、それは最終的に火力の効率上昇分だけで吸収することが可能だ。これにより自動車の消費する約8500億kWhのエネルギーが丸々削減される形になる。新型の高効率火力は、さらに1・4兆kWhの無駄の削減にも切り込んでいくだろう。そうすると、最終的に国全体として1兆kWh以上の省エネが達成されるという見積もりは、決して過大ではない。冒頭で言ったように、これは原発150基分の年間発電量に匹敵する。これはまた脱石油の中核政策ともなるだろう。

ちなみに、省エネというのは、単なる節電・節約とは異なり、「以前と同じ仕事をより少ないエネルギーでできるようになる」という意味である。つまり、ガス文明化すれば、今と同じGDPと生活水準を支えるのに必要なエネルギーを大幅に削減できるのだ。

(追記)

*08年9月のリーマン・ブラザーズ破綻以降、生産の縮小と輸送量の減少によりエネルギー需要がそれ以前に比べて落ち込んでおり、ここで紹介した09年度の一次エネルギー供給と最終エネルギー消費の数値は、それが反映されたものであることをお断りしておく必要がある。周知の通り、GDPとエネルギー消費量はほとんど比例している。リーマン・ショックにより、実質GDP基準で日本経済は07年を頂点として下降気味だ。08年のGDPは前年比マイナス4・1%、09年はマイナス2・4%である。それでも上で09年度の統計をあえて基準にして論じたのは、悪化した数値が一時的なものではなく、今後しばらくは常態化していくと予測するからである。

2012年02月23日「アゴラ」掲載

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