原子力バージョン2.0ー「キャンドル炉」と「海中ウラン採取法」のコンビ

エネルギー問題




前回言及した「CANDLE炉」ですが、その考案者である東京工業大学原子炉工学研究所の関本博教授によると、Constant Axial Shape of Neutron Flux, Nuclide Densities and Power Shape During Life of Energy Productionの頭文字から作った造語だが、「蝋燭のように燃える」ことも表しているそうです(以下、カタカナでキャンドル炉と表示)。

キャンドル炉の特徴について、関本教授の「蝋燭に灯を点せ」から引用させていただきます。http://www.nr.titech.ac.jp/~hsekimot/CANDLE050418.pdf

新燃料として天然ウランや劣化ウランの使用が可能になり、しかもこれらの約40%が燃える。我々は既に大量の劣化ウランを保有しているが、これを用いれば、ウラン採鉱も濃縮施設も再処理施設も無しに、何百年も原子力を利用し続けられることになる。また燃焼度が高い分、使用済み燃料の量も少なく、ワンススルーと呼ばれる簡単な燃料サイクルを用いることができる。



驚異の「キャンドル炉」と「海中ウラン採取法」コンビ

では、この「キャンドル炉」と「海中ウラン採取法」の組み合わせは、いったい何が凄いのか。それは下の1~3を考え合わせれば想像がつくと思います。

1・海中からのウラン採取法……捕集性能「2gU/㎏」タイプの場合、60mのモール状捕集材を60日間係留することにより、約120gのウランが捕集できる。

2・キャンドル炉……天然ウランの4割を燃料化できる。じわじわと反応が進むので、炉心形状次第だが、一度燃料を装てんすると数十年の連続運転が可能。

3・核分裂のエネルギー……1グラムのU235が核分裂するとだいたい2万kWh強のエネルギーを放出する。これは石油2千ℓ以上にあたる。プルトニウムだとわずかに多くなる。一般的には熱出力のうち三分の一程度が電気に変換できる(*)。

以上のことから、両者のコンビにより、60日間係留した捕集材一本から、だいたい30万kWhの実電力を生める計算になります。これは驚異的な数値です。

一般に、海中ウラン懐疑派の中には、「ウランは膨大な海水で希釈されているので、何らかのエネルギーを投入して濃縮しなければならない」と信じている人が多いようです。つまり、無意識に塩の製造をイメージしている人が多い。

ところが、前回引用の資料によると、実際には、人工海草のようなものを、暖かい黒潮の海に係留しておくだけです。海底に定着させた場合、その上を船が行き来することもできます。十分にウランを吸着させた後、それを回収して、酸で溶出することで天然ウランを採取します。今後は、捕集性能の向上や、繰り返し使える耐久性の向上により、経済性が高まることが予想されます。

モール状捕集材の大規模製造から設置・回収にどれくらいのエネルギーを必要とするかは分かりませんが、常識的に考えれば1本あたり石油換算で何十何百ℓという程度でしょう。そうすると、このシステムのエネルギー収支はガワール油田を超える史上空前のレシオになる可能性があります。しかも、事実上の持続可能です。

おそらく、大規模工場のような大口消費者が小型キャンドル炉を自家設置すると、電気代は異常に安いものとなり、半ば使いたい放題と化すかもしれません。その時点の技術が許す限り自動化速度を追求できるので、資源制約の範囲内での生産性がさらに向上します。かつての人類社会はバイオマスの成育速度に制約されており、それが化石燃料の使用によって解放されたと言いますが、その上限がさらに切り上がる形になります。

これは第三のエネルギー革命に相当します。そうすると、進行波炉の開発をぶち上げたビル・ゲイツがなぜ中国国営企業と手を組んだのか、つまり、なぜアメリカで疎まれているのかがよく分かります。アメリカの全エネルギー産業にとって、こんなものができたら「商売あがったり」だからではないでしょうか。

*100万kW級の原発(稼働率8割)は年間に約70億kWhの電力を生む。その際、30トンの燃料内の1トンくらいを核分裂させている。つまり、1グラムのU235・Pu239の核分裂が実際には約7千kWhの電力を生んでいる計算になる。発生する熱エネルギー自体はちょうどこの3倍である。

核のゴミは保管し続け、その間に「宇宙処分法」の確立を

ところで、仮に上の方法で原子力が持続可能化したとしても、依然として以下のような懐疑論が一般には根強いと思います。

「たとえ何炉であっても、原発を動かす限り、使用済み核燃料は生み出され続ける。その保管には限界があるし、また高レベル放射性廃棄物の処分法もなければ最終処分地も決まっていない。よって、発電だけ持続可能化しても、システムとしては早晩行き詰るはずだ」

この問題をどのように解決すべきでしょうか。これに関しては、以前にも私なりに提案させていただいたことがあります。ただ、幾つか指摘しておきたい点があります。

第一に、使用済み核燃料プールがすぐに「満杯」になってしまう理由は、水冷にしているからです。わざわざ水冷にする理由こそ、将来の再処理を前提としているからに他なりません。ワンスルー利用の場合は、プールを建設する必要がなく、とりあえず「乾式キャスク」で保管する形になります。この容器は分厚い金属製で、地震でゴロゴロ床に転がって壁に叩き付けられても、強度的に無問題だそうです。

第二に、その容積についての誤解が大きい。国内で50基の原発を動かしていた頃には、だいたい年間で1500トン程度の使用済み核燃料が発生していました。つい水の体積でトン数をイメージしてしまいがちですが、ウランは比重が高いので、1500トンといえば5m立方の空間にすっぽりと収まってしまう程度の量です。マンションのリビングルームくらいです。ただし、燃料は容器に入っているため、実際にはこの何倍かの量になりますが、それでも「使用済み核燃料で国内が溢れかえる」という表現は大げさだと思います。

その使用済み核燃料の中には、まだ核燃料として使えるU235・Pu239がそれぞれ1%ほど残留しています。5%くらいが高レベル放射性廃棄物(核分裂生成物)で、残りは燃えにくいU238です。今は再処理によって、ここから燃料とゴミを取り分けています。

さて、キャンドル炉が実用化すると、U238が燃料化できるので、この使用済み核燃料や劣化ウランが燃料にできます。つまり、キャンドル炉が稼動すれば、当面はそれまで溜め込んでいたモノを燃料にすればいいわけで、新規には増えません。最終的に心配すべきなのは「キャンドル炉から出た使用済み核燃料」ということになります。これはもはや再処理等をすることはありません。その量は従来に比べて発電量あたり十分の一以下になります。というのも、従来炉は装填した燃料の数%しか燃やせないのに対し、キャンドル炉は4割も燃やせるからです。

ただ、使用済み核燃料の発生量自体が非常に少ないといっても、キャンドル炉の稼動によってそれは確実に生まれるわけで、最終的にはどこかへ片付けねばなりません。これを「乾式キャスク」として保管した場合、仮に50基のキャンドル炉を千年以上動かしたとしても、東京ドームくらいの容積があれば十分に収容可能です。高レベル放射性廃棄物もその中に含まれている形になります。そうすると、その規模の保管施設をいったん作ってしまえば、本質的な解決策を生み出すまでに、千年以上の猶予があることになります。

私はいっそうのこと、南鳥島にこの「保管ドーム」を建設すればいいと思います。ドーム構造にする理由は、どの方角から津波が来ても抵抗を最小限に抑えるためですが、それはともかく、東京都小笠原村南鳥島に保管庫を建設する合理的な理由があります。

第一に、原発の最大の受益者が東京都であること。地方が大都市の安全装置として利用されている図式があるので、「せめて核廃棄物は東京が受け入れるべきだ」という理屈が成り立ちます。

第二に、南鳥島には地震がないこと。本土のようにプレートの境目に位置していないからです。

第三に、地理的に本土からもっとも離れている無人の島であること。

以上により、政治的にも、安全性の面からも、南鳥島での保管は合理的だといえます。

そして、保管している間に、本質的解決策をみんなで見つけ出すわけです。時間的な猶予は千年以上ありますから、あまり慌てる必要はありません。今では分離した高レベル放射性廃棄物を地下300m以下に“最終処分”しようという話になっています。

ただ、この方法は科学的にはどうあれ、政治的又は生理的に受け入れ難いものがあります。私を含めて多くの人間は不合理で情緒的なのが偽らざる姿です。世間が感情的に納得できるとしたら、地下深くや海外への“隔離保管”よりも、核種変換や地球内部又は宇宙への投棄といった解決策になるのではないでしょうか。

やや言葉は悪いですが、私はむしろこの大衆情緒をこそ、宇宙エレベータ開発のための一種の「口実」として利用したらどうかと思っています。もともと「宇宙処分法」もちゃんとした検討課題です。ただ、ロケットでは無理、という結論にすぎません。

しかし、「宇宙エレベータ」や「反重力」といった方法なら別です。前者は世界中の科学者が真面目に研究しています。実際、今の科学技術の発達スピードから考えて、実現するまでに、千年どころか、百年もかからないのではないでしょうか。

しかも、単に核のゴミ問題を解決するだけでなく、莫大な先行者利益があります。そういう思いを込めて、大林組の公表した建設構想を下地にして書いたのが以下の記事でした。

高レベル放射性廃棄物の根本的解決法としての地球外投棄

宇宙エレベータ建設が日本の未来を切り開く(前半)

宇宙エレベータ建設が日本の未来を切り開く(後半)

宇宙エレベータ建設候補地として、日本はまずインドネシアの無人島を買えばいいと思います。当面はロケット発射場として使い、衛星打ち上げビジネスの拠点とする。ちなみに、そこからインドネシアに長距離ミサイルの技術が伝わる形にすれば、中国は戦力配分の大幅な見直しを迫られることになるでしょう。

原子力バージョン2・0

むろん、キャンドル炉自体の安全性・耐震性の必要性は言うまでもありません。たとえば、いったん「点火」した後に、炉を完全密閉式にできないでしょうか。カプセルが発熱しているようなもので、万一、炉が地面に倒れても、自然放熱が可能という具合に。こうして地震国でも安心して使えるものが完成すれば、「海中ウランの採取」→「キャンドル炉」→「宇宙エレベータでの投棄」という一つの体系ができあがります。非常に空想じみているかもしれませんが、キャンドル炉も宇宙エレベータも現実に研究開発している人たちがいます。そしてどちらも日本が先に開発すれば、その先行者利益は計り知れません。

さて、最後ですが、「ニュー原子力」として、以上が第一の候補とすれば、その他にも有望なものが二つほど思い浮かびます。

第二は、「凝縮系核効果」と呼ばれるものです。これはかつて常温(低温)核融合とも言われていました。個産個消用として非常に有望だと思われます。

そして第三が、「核融合」です。いま国際熱核融合実験炉を意味するITER計画が着々と進められています。日本・EU・ロシア・米国・韓国・中国・インドによる国際共同プロジェクトです。2019年に「定常運転」を目指しているそうで、これは驚くべきことです。従来は瞬間値でしかなかったのに、巨大な出力が持続するというのです。いよいよ発電所としてモノになることを意味しています。都市部の大型発電所として期待が持てます。

http://www.naka.jaea.go.jp/ITER/

これまで記事で記したように、私は現在の原発に対してかなり懐疑的な立場です。普通に持続可能でクリーンで国産ということであれば、地熱発電所のほうがはるかにマシと思っています。現に地熱発電の開発に投資を集中させるべきだと以前に書きました。しかし、一方で、「まったく新しい原子力」についても期待しています。クリーンで持続可能であれば、自然エネルギーとニュー原子力は何ら対立するものではないと確信します。科学技術立国日本の取るべき道は、上の三つのような“原子力バージョン2・0”への移行ではないでしょうか。

(以下、再掲時付記)

この記事の元記事は、

・前回の記事のお詫びと訂正 および「原子力バージョン2.02012年11月08日「アゴラ」掲載20:12

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ですが、前半部分は省いて再掲しました。ご了承ください。

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