日本国のエネルギーの流れと「超省エネ法」の紹介

エネルギー問題
国際宇宙ステーションから見た日本




エネルギー問題は日本の様々な社会問題の中でも最難問の一つである。これを解き、将来に向けたベストな戦略を練るためには、最低限、日本のエネルギーの需給構造を把握することが不可欠だ。だが、一般にはエネルギー自給率以外のことはよく知られていない。これを表しているのが資源エネルギー庁の「エネルギーバランス表」等の統計であるが、極めて子細な数値で、しかも一般にはなじみの薄い熱量単位ジュールが使われており、専門家でない人が読み解くのが困難になっている。だが、エネルギーの現状や全体像を把握する上で、この難関を突破することは欠かせない。そこで、私のほうで要点を抽出し、勝手にワット単位に変換して、国内のエネルギーの流れを分かりやすく再構成し、また併せて省エネ余地部分を指摘して、その改善法も示してみた(*以下は09年度の数値)。



一次エネルギー供給

日本の一次エネルギー供給は約6兆kWhである。このうち93%が輸入化石燃料とウランだ。単純にいって、石油が4割強、石炭と天然ガスが2割ずつ、原子力が1割強と考えてよい。このように、日本のメインエネルギーは依然として石油である。残る7%が「エネルギー自給率」と呼ばれるもので、その内訳は水力、バイオマスや太陽光などの新エネルギー、そして国内でわずかに獲れる天然ガスなどである。

ただし、石油製品の輸出分等もあるので、それを差し引くと、純供給は5・8兆kWhとなる。今現在の国家の経済活動と国民の生活水準を支えるためには、要はこれだけのエネルギーが毎年、不可欠だということである。

エネルギー転換

この一次エネルギーは、そのままわれわれの手元に来るわけではない。いったん「エネルギー転換部門」に回され、消費者が実際に利用しやすい「二次エネルギー」へと変えられる。この部門を担っているのが事業用・自家用発電、石油製品製造、都市ガス製造などである。簡単にいえば、石炭や天然ガスを燃やして電気を作ったり、原油を精製してガソリンや灯油などを作ったりするプロセスだ。こうして得られた二次エネルギーがわれわれ消費者のもとへと届けられる。

このプロセスにおいて、約5・8兆kWhのエネルギーが約4兆kWhに減少する。つまり、転換過程で約30%ものロスが出ている。このロスの約8割が「事業用発電」から生じている。この業務を行っているのが、電力十社などの一般電気事業者と、彼らに電気を卸している電源開発などの卸電気事業者である。

それにしても、「電気」を作る際にどうしてこれほどのロスが生じるのだろうか。それは現在の技術では、化石燃料の燃焼やウランの核分裂反応の際に生じる熱エネルギーを必ずしも有効に生かしきれないからである。たとえば、火力は1・5兆kWhのエネルギーを仕入れて6千億kWhを電気に変え、9千億kWhを捨てている。発電効率は平均4割で、発電燃料の半分以上はただ燃やすために燃やされているのが現実だ。ただし、この数値は世界の発電界から見れば、日本の技術者たちがいかに優秀かを示すもので、非難どころか賞賛に値する成績である。

最終エネルギー消費

こうして、元のエネルギーの7割と化した二次エネルギー(電力・ガソリン・都市ガスなど)が最終エネルギー消費(需要端)部分へと向かう。消費の大きな順に、産業部門が約1・7兆、運輸が約0・95兆、業務が約0・8兆、家庭が約0・6兆である。しめて4兆kWhだ。

09年度エネルギー需給表

各部門が消費する二次エネルギーの中身を見ると、決して一律平坦ではない。それぞれの特徴を浮かび上がらせるため、まず「電力の使用割合=電力化率」という観点から見ることをお勧めする。家庭と業務部門は、電力化率がだいたい半分に達している。ところが、運輸部門はたった2%(むろん鉄道用)しかなく、98%が石油系燃料に依存している。産業部門の電力化率も17%と低いが、使用燃料は石油・石炭・天然ガスがうまくミックスされている。発電所以外では、石炭はほとんど産業部門でのみ使用されている。

余談だが、運輸部門の2%のエネルギーしか使用していない鉄道が、日本全国の旅客輸送のなんと27・7%を、貨物輸送の4%を担っている(国交省輸送機関別輸送量05年統計より)。大量輸送機関としての鉄道の効率の高さがずば抜けていることが分かる。

「四分の一パート」と「四分の三パート」で別個に起こっている問題

各部門の電力需要を合計すると、約4兆kWhに及ぶ最終エネルギー消費のうち四分の一程度しかない。依然として四分の三は化石燃料の需要なのだ。仮に前者を指して「四分の一パート」、後者を指して「四分の三パート」と表そう。

福一原発事故以降、「四分の一パート」にすぎない電力フレーム内だけのエネルギーシフト論議が盛んである。事故以前は、1兆kWhの電力需要のうち6割を火力が、3割を原子力が、1割を水力とその他が担っていた。事故によって現在、そのバランスが崩れ、どう再構成していくか、議論になっている。だが、それがさも日本全体を対象としたエネルギー論議であるかのような錯覚が、マスメディア・政界・国民の間で蔓延している。

本当は、「四分の一パート」で原発をめぐって、そして「四分の三パート」で石油をめぐって、それぞれ問題が発生しているのが現状である。正確を期すなら、電力分野は発電量の8%を石油エネルギーに依存しているので、この二つはわずかに被っているが、基本的には別個の問題である。最終エネルギー消費のうち石油が約2兆kWh、原発が約3千億kWhを占めているので、問題の規模でいえば前者のほうがはるかに大きい。

社会や文明を支えるエネルギーは本来、経済的でなければならないが、石油は年々、その最重要条件において欠格化しつつある。安定供給の面でもきな臭くなってきた。現代文明の基幹資源の将来性が揺らいできた上に、原発問題までが重なった日本の状況は、もはや「エネルギー非常事態」と呼んでも差し支えない。とくに日本のアキレス腱が、輸入石油に全面的に依存する運輸部門である。石油価格の上昇がこの部門を直撃し、その悪影響がすべての部門に波及するようになっているのが、今の社会や経済の構造である。

省エネ余地のもっとも大きい部分

この喫緊の課題に対して、かなり有効な策を以下に紹介する。

巷間でよくある決まり文句が、「日本のエネルギー利用効率は世界一だ」というものだ。これは本当だが、その後にしばしば追加される、「雑巾を絞り切ったので、もう省エネ余地は少ない」という文句は嘘である。なぜなら、大幅な省エネ余地が二つの部分で残されているからだ。

一つが今言ったエネルギー転換プロセスである。ここで国全体として3割もの損失が生じているので、最大部分だ。1・8兆kWhものロスをいかに削減するか。解決策は発電効率の上昇だが、それが期待できるのが火力発電である。切り札となるのが、高温型燃料電池にガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたトリプル発電の技術だ。

この天然ガス版はすでに実証段階である。一方、石炭もまたガス化技術によって燃料電池との組み合わせが可能となる。この石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)もまた実証段階に入っている。商用化の暁には、天然ガス版で70%以上、石炭版で60%以上の発電効率が期待できる。現火力の平均効率が40%なので、大幅な上昇である。私はさらに最新の低位熱発電も最後尾に据えて“四重発電”にしたらよいと、素人なりに思う。

日本には、将来を見据えて、こういった発電技術を数十年前からえんえんと研究開発している技術者たちがいる。彼らがその真価を発揮し、社会に貢献する時が来た。こういった素晴らしい人材と技術を生かすも殺すも政治の采配次第である。火力の更新は必然的に大型の設備投資とならざるをえないが、電力会社だけに背負わせるのは酷なので、2兆円の予算規模をもつエネルギー対策特別会計費から部分的に引っ張ればよい。もともと名目はエネルギー需給構造高度化や電源開発、電源立地対策のためのもので、官僚や議員の天下り先である公益法人に無駄飯を食わせるためのものではない。

おそらく、ガス・石炭火力の更新だけでなく、現実には縮小を余儀なくされる原発の代替も兼ねることになると思う。どうせ立地対策費も浮くから、どんと設備投資に回せばいい。また、火力の効率向上の他に、地熱開発にも予算を充てるべきだ。この二点は費用対効果が非常に高い。さらに、これは以下に述べる策とも連動しているが、石油火力を段階的に廃止し、ガス・石炭式に置き換えていく必要がある。というのも、原油の輸入を減らしていくと、石油火力の燃料(精製の過程で排出される残渣油)もまた必然的に減少していくからだ。以上の作業を粛々と進めることにより、巨大なロスも年々減っていくだろう。

脱石油は先んず運輸部門から

もう一つは運輸部門、とりわけ自動車である。今日、自動車のエネルギー消費は部門9割を占め、だいたい8500億kWhである。一般に内燃機関の効率は悪く、10ℓのガソリン中、8ℓは摩擦と熱で消え、動力に変換されるのはわずか2ℓ程度だ。ただし、ハイブリッド車などのエコカーならば3割以上の効率を叩き出している。平均で効率3割としても、動力に投入されているのは、内2552億kWhに過ぎない。対して、電気モーターの場合、投入した電気エネルギーの9割以上が動力に変換される。

以上のことから、8500億kWhの石油エネルギーを投入した内燃自動車の合計走行距離と、3千億kWhの電力を投入したEVのそれは、ほぼ等しいと考えられる。つまり、単純に日本中の稼動自動車を内燃車からEVに変えるだけで、0・5兆kWh程度の省エネが実現すると推測される。自動車は十年間で8割が新車に入れ替わるので、20年度までに全新車がEVまたはPHVになれば、30年度までにこの転換を終えられよう。

今日、先進国はE10化(*ガソリンの10%にバイオ燃料を混合)やE20化を標準化し、さらにその先を目指している。成功モデルとされるブラジルなどは、ガソリンとエタノールをどのような比で混合した燃料でも給油可能なフレックス車(FFV=flexible-fuel vehicles)が主流で、レギュラーガソリンでE25を実用化している。日本もE10化がほぼ規定路線になってしまっている。

だが、「日本はバスに乗るな」と言いたい。今後、せっかく作ったバイオ燃料は自動車のタンクに入れず、ジェット機と船舶に回すべきだ。こうすれば、日本の運輸部門全体を石油から切り離すことができる。そうすれば、新たな石油危機が到来しても、日本経済は決定的な打撃を回避できよう。私の予想では、フレックス車と燃料電池車は最終的に淘汰される。EVは今世紀だけでなく、22世紀も、23世紀も、この先、人類がずっと使い続けることになる自動車だ。日本は道草を食わず、EV一本で行けばいい。

まとめ

このように、「エネルギー転換プロセス」の火力発電部分と「エネルギー消費プロセス」の運輸部門で、大幅な省エネが可能である。この二つの策は、たまたま一方が電力供給力を生み、もう一方が電力需要を生じるものなので、非常に相性がよい。これにより、最終的にどれくらいの省エネが達成されるかは、やってみないと分からない。私個人は、一次エネルギー供給で5兆、最終エネルギー消費で3・5兆kWhくらいには圧縮できるのではないかと思っている。

省エネと節約・節電は似て非なる。今と同じ経済活動や生活水準を維持しながら、必要なエネルギーだけは2割弱減らすことができる――これが今回の省エネ策だ。高価な石油の輸入が急減するので、化石燃料輸入費はそれ以上の割合で削減することができる。また、お気づきの通り、省エネを果たしながら同時に「四分の一パート」で生じている原発問題と「四分の三パート」で生じている石油問題に対する有効な手立てともなっている。

だが、デメリットもある。一つは自動車部品産業から大量の失業者が発生することだ。それを少しでも収容するためにも、風力発電(しかも大規模洋上)を推進していくことが望ましい。大型の風力タービンは、一般には扇風機の大型版と誤解されているが、実際には電力周波数に同期させるためにかなり複雑なメカトロニクスを採用している。もう一つは石油産業が斜陽化する、否、最終的には滅ぶことだ。これは時代の流れだが、彼らには優先的にバイオ燃料の生産者に転換してもらうべきだ。今度は“永久油田”の権益オーナーというわけで、見方によってはステイタスの向上である。石油化学自体も植物化学へと脱皮していく必要がある。彼らには広大な農地を優先的に与えてもよいと思う。

2012年01月18日「アゴラ」掲載

 

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