天然ガスの可採埋蔵量は数百年、将来は一千年

エネルギー問題
出典 明治大学ガスハイドレード研究所 海底に露出するメタンハイドレートの巨大なブロック






メタン文明 第1のメリット

来たる「メタン文明」において、もっとも重要な点からはっきりさせよう。

果たして、天然ガスの埋蔵量はどれくらいあるのだろうか。参考にまでに、現在の日本の年間LNG輸入量が約7200万トンであり、ほぼ1千億㎥にあたることを念頭に置いた上で、以下を読み進めてほしい。

在来型ガスの埋蔵量

資源エネルギー庁や電力会社が好んで引用するのがBPやOECD/IEA-NEA(原子力機関)の資料であり、総務省統計局が引用するのが国連の“Energy Statistics Yearbook”だ。これらによると、天然ガスの可採年数はせいぜい60年である。BPのStatistical Review of World Energy 2009によると、可採埋蔵量は約185兆㎥であり、これは経済産業省の「エネルギー白書2010」でも引用されている数字だ。

この天然ガスの可採年数は、石油のそれと同じように、確認埋蔵量を現在の生産量である約3兆㎥で割った単純なもので、需要増を考慮していない。IEA(国際エネルギー機関)は先ごろ、天然ガスの世界需要は35年度には約6割増加して約5兆㎥になると予測した。この関数で考えると、可採年数はさらに短くなる。

ということは、われわれは仮に「メタン文明」という新しい家に引っ越しても、すぐにまた慌ただしく別の住まいを探さねばならないのだろうか。

だが、最新の知見が公式統計に反映されるまでには、かなりのタイムラグがある。この数字はもう古いと言わざるをえない。たとえば、北極海の天然ガス埋蔵量は約80兆㎥とされる。これで一気に4割の増加要因である。

非在来型ガスの膨大な埋蔵量

しかも、掘削技術の進歩により、従来のガス田起源とは違った「非在来型ガス」が急速に存在感を増してきた。これに関しては、従来から膨大な埋蔵量が知られていたが、採算の問題からほとんど利用されてこなかった。だが、2000年代に入り、テキサスのベンチャー企業が石油掘削の技術である水圧破砕や水平坑井をより進歩させることで、シェール(頁岩)層からの大量のガス採取に成功した。以来、生産への参入が急増し、アメリカはロシアを抜いて世界最大のガス生産国へと躍り上がった。これにより世界的に供給がダブつき、結果的にロシアが割を食う羽目になっている。このように、従来の天然ガス市場や供給国に与えたインパクトが大きいことから、“シェールガス革命”と呼ばれている。

この非在来型ガスの可採埋蔵量に関して世界に衝撃を与えた論文が、テキサスA&M大学のステファン・ホールディッチが06年に発表したTight Gas Sandsだ。それによると、シェールガスが461兆㎥、タイトサンドガス(硬質砂岩層ガス)が212兆㎥、コールベッドメタン(炭層ガス)が249兆㎥の推定埋蔵量である(*原文では兆立方フィート〈Tcf〉記載だが、メートル法に修正した)。合計922兆㎥という途方もない埋蔵量で、在来型と足すと1187兆㎥だ。

これを現在の生産量で割ると、可採年数は実に「400年弱」となる。35年度の予想需要である5兆㎥で割っても237年である。このホールディッチの推測は、それほど過大なものではないようだ。というのも、最近になって、次々と有力機関が近似した調査結果を公表しているからである。

先刻、オバマ大統領が11年3月に行った演説を取り上げたが、かい摘むと、大統領は石油依存の現状によってもたらされるエネルギー危機の解決策として、天然ガス・バイオ燃料の導入と省エネの推進を強く訴えている。オバマは演説の中で、「新たなエネルギー源」として「最初の候補は天然ガスだ(The first is natural gas)」と挙げ、「最新のイノベーションは足元にあるシェール層の膨大な埋蔵量――たぶん1世紀の価値、100年の価値の埋蔵量――を開発する機会をわれわれに与えた」と誇らしげに語っている。

同4月には、合衆国エネルギー情報局(EIA)は「世界のシェールガス資源:アメリカ以外の14地区の初期見積もり」と題するレポートを発表した(調査対象は14地区・32カ国で、ロシア・中央アジア・中東・東南アジア・中央アフリカなどは未調査)。

これによると、在来型ガスの埋蔵量が6609兆立方フィート(約187・1兆m3)、シェールガスの可採埋蔵量が6622兆立方フィート(約187・5兆m3)だ。なんと、シェールガスの埋蔵量は、ロシアや中東などの有力地を除いても、在来型ガスとほぼ同じだけ存在すると記しているのである。

このレポートで興味深いのは、調査対象国の中で、中国がシェールガスの最大の資源国である点だ。中国は在来型ガスこそ107兆立方フィート(約3兆m3)と比較的少ないが、シェールガスは四川やウイグルなどに1275兆立方フィート(約36・1兆m3)も埋蔵している。これは日本の現在の消費量の360年分に相当する量だ。ちなみに、調査対象国の中で二番目に多いのがアメリカで、在来型が272・5兆立方フィート(約7・7兆m3)、シェールガスが862兆立方フィート(約24・4兆m3)となっている。

さらに、6月には、IEAが“WORLD ENERGY OUTLOOK 2011”の特別レポート『われわれはガスの黄金時代に入りつつあるのか?』を発表した。かなり分厚い内容だが、天然ガスの埋蔵量に関しては、以下の記述を拾うことができる。

「主要鉱区の可採埋蔵量は少なくとも現在の消費量の75年分に等しい」

「在来型ガスの可採埋蔵量は現在の世界消費量の120年を超える」

「トータルの可採埋蔵量が250年を超える」

これは従来の数値を大幅に上方修正している。在来型と非在来型のガスを合わせた埋蔵量が250年分あると、先進30カ国が加盟する組織が公式に認めたことは重要だ。

メタンハイドレート(氷状メタン)

しかも、非在来型ガスの中には、現在の技術経済条件下では採掘不可能なため、「非可採」扱いになっているものがある。それがメタンハイドレート(氷状メタン)だ。

これは低温高圧下でしか存在できないので、永久凍土と深海域にしかない。(独)産業技術総合研究所・地圏資源環境研究部門の奥田義久氏によると、陸域(永久凍土)で数十兆㎥、海域で数千兆㎥の資源量があるという。一説には数京㎥とも言われている。つまり、最低でも今の可採埋蔵量の、さらに数倍は賦存すると推定されている。

長年、日本の官民学のコンソーシアムが近海の資源分布を調査してきたが、数年前から掘削方法の研究開発も始めている。先日、今2月にも愛知沖で試掘をするというニュースが飛び込んできた。問題はコストである。現在、家庭・業務用のガスは1㎥あたり百円以上もする。製造業用ならもう少し安い。よって原価(採取コスト)はその半分以下に抑えたいところである。今、実用化されているのは減圧法だが、商用ベースに乗せられるかどうかは疑問だ。なぜなら、パイプラインがないとせっかく採取したガスの、リアルタイムでのもっていきどころがないからだ。今のインフラだと、馬鹿なことに、採取したガスをいったん圧縮しなければならない。この時点でもうコスト的にアウトではないだろうか。

いずれにしても、今はまだ試掘の段階だが、そう遠くない時期に可採化(=コストパフォーマンスを達成)するのではないか。それによって天然ガスの可採埋蔵量は三度修正され、35年度の予想需要を基準にすると、最終的に一千年を超えるようになるだろう。

このように、各機関や研究者によって若干異なるが、天然ガスの埋蔵量は極めて膨大という点では一致している。よって、今後の需要増を考慮しても、供給は長期にわたって安泰であり、石油に依存するよりは遥かに安心できるというのが事実である。

以上がメタン文明のもつ「6つのメリット」のうちの、まずは一つ目である。

2012年02月09日「アゴラ」掲載

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