今後十年でバッテリーの性能とコストは大きく改善し、とりわけ「走行距離の短さ」と「価格の高さ」というEVの欠陥はほとんど解消されること。
結局、EVの普及の妨げとなるのは、「充電器の未整備」であり、それさえ進めば、あとは市場まかせでも勝手に普及していくこと。
前回は以上のように結論した。つまり、普及の鍵を握るのは、むしろインフラ側であり、バックアップ体制のほうというわけだ。
今回はこの「充電器問題」に焦点を当てたい。
急速充電器は何台必要で、いくらかかるのか?
現在、急速充電器の数は、全国にたった1400台ほどだ。この貧弱な充電インフラがEVユーザーに不便をかけ、普及を妨げる最大の要因になっている。
現時点でCHAdeMO規格の急速充電器はすでに30社以上から市販されている。大きさは飲料の自動販売機くらいが多い。性能的には50kWタイプで、15~30分で8割充電といったところ。ただし、蓄電池装備の急速充電器の場合、10分以下も登場している。
では、今後は急速に普及していくのだろうか? 民間各社の計画では、日産を筆頭に自前で数千台を整備することが明らかにされている。また、昨年の民主党政権の「次世代自動車戦略」や「革新的エネルギー・環境戦略」では、20年度までに5千基を設置するとしている。
ただし、これが「迅速な整備」に値するのか否か、なかなか判断がつきにくいところだ。そこで現行車の給油体制と比較してみよう。
現在、日本の自動車数は約7600万台(うちトラックが1500万台)。一方、ガソリンスタンドは約4万箇所だ。一箇所につき数台の給油機が設置されているので、端末の総数は20万台前後ではないかと推測される。ちなみに、車一台につき1~2分の給油時間で済ませていることや、全機がフル回転しているわけではないことも要考慮だ。
対して、EVの充電時間は8分から30分と、はるかに長い。当然、燃料給油機に比べて回転率が悪い。これらの事情を考慮すると、自動車の大半がEV化した暁には――私は20年くらいかかると思うが――50万台以上の急速充電器が必要ではないだろうか。
しかも、普及は急がねばならない。現在、EVは家庭や職場で充電する比率が高いが、今後は街中での充電が日常化する予測も織り込む必要がある。というのも、二次電池の性能とコストの改善によって走行距離が伸びていくと、それに伴って電池が大容量化するからだ。すると、家庭や職場のプラグでは、満充電までにあまりに時間がかかりすぎてしまう。
また、EVだけでなく、これからはPHV需要も急増すると思われる。今日、すっかり主流化したHV車だが、バッテリーを少し強化するだけですぐにPHVになる。
現在、プリウスPHVは急速充電器に未対応だが、トラックも含めて今後続々と登場する車種は、燃料走行よりも電動走行のほうがはるかに安くつくという経費上の動機から、いずれ街中の充電器を当てにするようになるだろう。
以上のような理由から、現行の急速充電器普及計画ではまったく物足りず、もっと急がなくてはならない、というのが私の実感である。とくに「20年度までに5千基」という前政権の計画は、ケタが違うのではないかと思われるほど、やる気を感じない。これで“革新的エネルギー戦略”だというのだから、苦笑いするしかない。
と思っていたら、昨日1月6日付けの日経新聞で、経済産業省が目標を大幅に前倒しする方針を決めたことが報じられた。急速充電器の設置に500億円以上を補助し、「EVを世界に先駆けて本格普及させるためのインフラを整える」という。どうやら、昨年末あたりに気が変わったらしい。誰かのセリフかと見紛うほどで、大いに期待したい。
一方、コストのほうはどうだろうか。急速充電器の価格は急速に下がって、日産が60万円のものまで出してきた。対して、蓄電池装備タイプは高いが、充電時間が短く、回転率が上がるメリットがある。いずれも現在は補助金が半額も支給される。
ただし、設置工事費が別にいる。日産の資料によると、「受変電設備」が近くにある場合とない場合とでは、工事費が極端に異なる。これは変電所のことではなく、金属製の箱の外観で、注意して見ると歩道の至るところに設置されている。前者ならざっと100万円前後の費用ですむが、無いと一挙に3倍近くに膨れ上がる。というのも、急速充電器は200Vの電気を仕入れるため、設置場所付近にこの種の降圧設備がないと、自前整備になるからだ。結果として、機種や設置場所次第でコストもまちまちだが、都市部ではこの「受変電設備」が多いため、1台につき200万円くらいですむケースが多くなる。
よって、総コストで見た場合、EVのインフラ整備費は比較的安い。ガソリンスタンドの場合、給油機のみを設置できず、必ずステーションの丸ごと建設になる。建築規制が多く、1億円以上かかると言われている。対して、急速充電器は、要は「電気の自動販売機」であり、電線のあるところならどこでも設置可能だ。5万台でも約1千億円程度の整備費ですむ。最終的に50万台を設置したとしても総投資額で1兆円だ(例によって増えたとしても2倍も3倍も、ということはないだろう)。
この「1兆円」という額をどう捕らえるかだが、20年間の累計だと考えると、実は自動車や道路関連の税収のほんの一部を引っ張ってくるだけで賄えることが分かる。いや、それどころか、知恵と工夫次第では、整備費はほとんど自家調達できるのだ。
一番いいのは「幹線道路沿いのコインパーキング方式」だ
では、設置場所としてふさわしいのはどこだろうか。民間では、自動車販売店の他に、スーパー、ショッピングモール、コンビニ、ファミレスなどでも少しずつ設置が始まっている。ただ、今現在、ガソリンスタンドの多い場所を思い浮かべれば、おのずと「本命」は明らかだ。もっとも交通量が多いところ――すなわち幹線道路沿いである。しかし、給エネニーズが高いからといって、わざわざガソリンスタンドのように土地を確保して充電専用ステーションを立ち上げねばならないのだろうか。むろん、そんな必要はない。なにしろ「電気の自動販売機」だ。よって、独自の普及法があってよい。
そういえば、四車線や六車線の幹線道路上、またそこから少し入った脇道には、すでにある種の販売網が築かれている。それがコインパーキングである。こういった場所にはいくらでも急速充電器の設置スペースがある。車が多く集まるだけでなく、ボックス状の「受変電設備」も至るところに設置されている。ならば歩道上に充電器が置かれ、地面が白線で区切られた「コイン充電コーナー」が立ち上がっても不思議ではない。
しかも、場所的にだけでなく、販売手法としても、このコインパーキングがヒントになる。要するに「ビジネス」と割り切ればよいのである。電力会社から業務用電力を仕入れて、それに1kWhあたり3~5円ほどを上乗せして売電すればいい。
蓄電池併設型ならば、もっと安い夜間電力を仕入れられるだろう。仮に1日につき2~300kWhほど売電すれば、千円程度の利益が出る。これは1日にEV約10台分、将来は5、6台分程度である。これで年間の利益は36万円だ。そうすると、設置費込みで200万円かかっても、6年もあれば償却可能になる。余裕をみて十年ペイでも、十分に採算が取れよう。
電気の販売価格が1kWh=20円前後でも、EVのランニングコストは依然として内燃車よりも安い(*ホンダのフィットEVは1kWhあたり10キロを走行できる)。現在、一部ですでにEVの有料充電サービスが始まったが、月会費をとるとか、従量料金ではなく1回ごとの使用料金を取るとか、変な売り方をしている。だが、ユーザーにしてみれば、公道上での手軽な、しかも従量制の料金体系のほうが、はるかに親しみやすい。しかも、電子マネー形式にすれば集金業務がなくなり、防犯的にも好ましい。
つまり、決して「コイン」を使うわけではないが、場所的にも販売手法的にも、幹線道路沿いのコインパーキング方式が充電インフラとして一番ふさわしいと考えられるのである。
なぜ今こそ国土交通省の出番なのか?
そうすると、国交省自らが法人を作って急速充電器の整備に乗り出すのがベストという結論になるのではないだろうか。
なぜなら、一番の適地が国交省の管轄下にあるからだ。自前の土地のため、ややこしい土地の貸し借りが介在せず、迅速な大量普及策に向いている。幹線道路沿いの充電器は、ユーザーにとってもベストポジションなだけでなく、整備費のほうも安くつく。
私は国際的な競争を制する意味でも、とくに初動の迅速さが重要だと思う。ただ、設置場所の問題もそうだが、営利に制約され、投資の回収を命題とせねばならない民間の自主努力では、限界がある。しかし、国交省ならば、石油消費量を減らすという大義名分を掲げることで、堂々と国策化できる。だいたい、資源大国のアメリカでさえ公式にナショナル・ポリシーにしているくらいだから、日本政府が脱石油の促進を明確に打ち出さないこと自体が異常というか、無責任といえる。貿易収支改善の観点からも、これは十分国家目標に値することであり、それゆえ公益事業とすることに何ら躊躇する必要はない。
そもそも、EVや充電器といった個別の話になると、つい眼前の技術論に陥りがちであるが、石油文明から脱するという大きな目的は常に忘れるべきではない。そのためには、石油を食う自動車を、いつまでも走らせておくわけにはいかない。日本は石油が自給できず、国土の制約からバイオ燃料の生産量も限られる。巨額の外貨で石油を購入しない限り経済が回せない。その呪縛は自ら断ち切らない限り永遠について回る。遅かれ早かれ代替は必然であり、長い目で見れば、むしろガソリン車の類いこそ一時的な存在でしかない。
しかも、公共事業といっても、コンクリートもののように、「作っておしまい」とか「作った後に維持費だけ食う」というわけではない。今言ったように、売電収益が生じ、徐々にそれが増えていくので、最終的には整備費も償却できよう。だから、公共事業費を投じてもまったく問題ないし、むしろ様々な理由から合理的ですらある。
当初の思い切った整備がマーケットを創造する
では、どのようなペースで、どれだけ設置すれば妥当だろうか。私はその国交省系法人だけで、2020年までに幹線道路沿いを中心に10万台を設置したらどうかと思う。つまり、2千億円程度の整備費である。むろん、最終的に7千万台のEVを支えることを思えば、それでも全然足りない。
私は個人的に30年度までに50万台/1兆円を目指したらよいと思うが、20年度以降の整備については今の段階で慌てて策定する必要はない。また、これは一般道の話であって、高速道は当然、PA・SAに設置する形になる。
これは将来の需要予測に基づく先行的なインフラ整備である。つまり、必ずしもEVの販売台数と歩調を合わせるものではない。しかし、EVの普及促進のためには、先んず運用上の不便を解消し、普及の最大障害を取り除くことが不可欠である。この点だけを取っても、民間にはやはりリスキーであり、採算性に鈍感な役所向きの事業だと思う。
当初はその「ダブつき感」を見て、「役所がよくやらかすミスをまたやらかした」とメディアがはやし立てるに違いない。しかし、初期には充電器側の普及がリードする形で全然構わないというのが私の確信だ。なぜなら、消費者心理には確実に肯定的な影響を与える。まず、現実に急速充電器がどんどん建っていく光景を目の当たりにすれば、「EVの時代が本格的に訪れた」と人々は思うようになる。また、それが「少々走行距離が短くても、バックアップがあるので大丈夫」という安心感の醸成にも繋がるだろう。
さらに、街中での手軽な充電環境の現出と、石油価格の上昇が重なれば、ランニングコストが安いモーター走行の優位性がいっそう浮き彫りになる。消費者はできるだけガソリンや軽油を買わずに済まそうとするので、HV車のPHV化も加速する。行政が妥当な助成をすれば、既存HV車のPHV化改装も進むかもしれない。よって、しばらくすると需要が追いついてくるので、充電インフラの過剰感も解消されよう。電動バイクや自転車まで群がってきて、意外と早く不足するかもしれない。ホームレスや女子高生(?)まで顧客になるといった、予想だにしなかった「意外な使われ方」が登場するかもしれない。
つまり、初期の大量整備は、一見すると投機的だが、結果としてイノベーションの要因にもなる。また、売電収益を通して投資分は戻ってくるので、決して無駄にならないというのが、いつにも増して楽観的な私の予想である。
充電はさらに進化していく
現在、ドライバーはステーションに立ち寄って燃料を満タンにしている。同じように、急速充電器のある場所に立ち寄って電気をフル充電するのもいいが、もっと「EVならでは」の強みを生かす工夫があってもよい。固定観念を見直せば案外ハードルも下がるものだ。やはり、内燃車にできないことができるのがEVの強みでなくてはならない。
たとえば、将来的に充電のスタンダードを「非接触式」にしていく。すでに電磁誘導を利用した埋設タイプが開発されているが、規格化などの課題もある。車載コンピュータを通して自動充電・決済が行われる形にすれば、駐車スペースに止めるだけでよい。車から降りる、プラグを差し込む、電子カードを取り出す等の動作が不要になる。
そのような非接触式プラグを、コインパーキングに留まらず、最終的には職場や買い物先など、車が駐停車しそうな場所のほとんどに設置する。すると、ショッピングや仕事、食事や休憩している間に充電する形になり、時間が無駄にならない。充電のみを目的としてその場にじっと30分もいるのは苦痛だが、普段の「駐停車中」なら問題ない。
そもそも、「充電するなら一気に満タンにすべきだ」という常識から疑ってみるのも一考だ。1世紀も内燃自動車の天下だったため、そういう刷り込みがある。しかし、給油と充電は違うものだ。たとえば、非接触式プラグを信号機の手前に埋設し、「信号待ち自動充電」を可能とする。ちょうど車線の中央、停止線からライン上にプラグを設置する形だ。道路の交通量に応じるべきだが、通常は前から数台分程度が妥当だろう。すると、赤信号機で止まるたびに、数百ワットが充電される。「ちょっとずつ充電」という発想だ。蓄電量はなかなか底をつかず、EVの搭載バッテリー容量も少なくてすむ。
ここに10リットルの燃料タンクしか持たない自動車があるとしよう。連続して走行できるのはせいぜい150キロ程度だ。しかし、信号で停止するたびにコップ一杯分の燃料を給油することができれば、結果的にタンクの量は維持される――考え方としてはこうだ。ただし、内燃車ならそれができないが、EVならばできる、というわけだ。要は、バッテリーの減り方を遅らせればよい。見方を変えれば、それは容量アップと同じことだ。
このように、非接触式の「パーキング充電」や「信号待ち充電」をどんどん増やしていく。高速道などでは、マイクロ波を使った走行中の「無線充電」なども取り入れていく。むろん、代金はすべて電子マネーによる自動決済とする。こうして、「手動充電」をなくしていき、最終的には「充電器に立ち寄る」という行為そのものを不要にする。
かくして、意識的に充電する機会がなくなっていけば、結果としてドライバーは、まるで無燃料車を走らせているような錯覚に陥るかもしれない。
より高次元な自動車交通システムを目指して
さて、私は、国交省が法人を立ち上げ、2020年までに、幹線道路沿いを中心に、コインパーキング方式を主として10万台の急速充電器を整備することを提案した。20年度以降も、その時の様子を見て、さらに設置を進めていくべきだ。
おそらく、全国的な充電インフラさえ完備すれば、EVの走行距離は500キロ程度でも十分である。重要なことは、EVの車体価格が同型の内燃車に並ぶことだ。そうすれば、EVのランニングコストは現行車の半分以下なので、経済性の面で圧倒的な差が生じ、もはや市場の力だけで勝手に普及していくだろう。
しかし、私の構想はそれだけではない。その国交省法人は、当初、電力会社から業務用電力を仕入れて、それに数円を上乗せして販売する形をとる。しかし、EVの需要がどんどん増えていけば、電力会社に大変な負荷がかかり始める。かつて(原発事故以前)は、EVの普及によって売上拡大になると見込んでいた電力会社だが、今はそれどころではない状況だ。そこで、次のステップとして発電部門にも進出すべきだ。
つまり、最終的に必要な電力は自分たちで生産して、それを全国50万台の急速充電器を通して、EVに供給するわけである。仮に1kWh=20円で、年間1千億kWhを売電するとすれば、その企業規模が想像できよう。しかも、ポイントは、なるべく道路スペースを利用した太陽光・風力発電でもって、その電力を賄うようにすることだ。つまり、エネルギーの「地産地消」である。
もっとも、最終的にはそれでは足りないので、日本列島をぐるりと取り囲む海岸線の内外を利用した大型風車による供給を切り札とする。それで発電した電力は、むろん地産地消の例外にあらず、近くにある幹線道路へと優先投入する。
今の自動車交通システムは、端的に言って、石油を生産し、精製・販売し、それを消費する仕組みである。歴史的にいえば、石油はもともと照明需要用だった。ところが、エジソンが実用電球を発明し、さらにその数年後に内燃機関と内燃車が発明されたため、状況が激変した。以後、人類は運輸燃料のために大量の石油を掘り出すようになった。
それに対して、私が訴えるのは、「自分たちで電気を生産し、販売し、それを消費する仕組みを道路上に構築しよう」ということだ。つまり、まったく新しい自動車交通システムを創って、今のそれに取って代わることが目的なのである。しかも、既存の系統電力に依存しない、持続可能なシステムだ。これこそ、今の時代に待ち望まれるイノベーションではないだろうか。しかも、発電・充電方法は、どんどん改良を重ね、進化させていく。
さらに、この新たな自動車交通体系に、現行ITS(Intelligent Transport Systems/高度道路交通システム)を融合進化させたらどうだろうか。これらをひっくるめて「スマート道路構想」としたい。
この「EV+スマート道路」システムこそ「石油キラー」、すなわち日本の輸入費を抜本的に減らし、輸出を増やす切り札に他ならないと確信している。
かつての日本は、道路インフラの整備に公共事業費を投じた。現在、その維持・補修、さらに防災面の強化が謳われている。ただ、それだけはあまりに芸がない。次は道路の「高機能化」に公共事業費を投じ、より高度で持続可能な自動車交通システムを開発し、新たな輸出商品とすべきだ。というわけで、次回にそれを詳述したい。
2013年01月07日「アゴラ」掲載
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