電力消費者に回される20兆円の請求書

エネルギー問題




以下は資源エネルギー庁がリリースしている平成25年5月末時点の再生可能エネルギー発電設備の導入状況である。

「太陽光(非住宅)」という項に着目してほしい。2011年度以前は累計でも約90万kWの設備容量に過ぎなかった。それが翌年に通称FIT法案が施行されたことにより、今年の5月末時点で1937万kWが新規に認定されたのだ。新規の再生可能エネ電源の合計が約2237万kWであるから、「太陽光(非住宅)」だけで全体の87%弱である(*しかも住宅用の太陽光を合わせれば93%になる)。

平成25年5月末再生可能エネルギー導入状況平成25年5月末再生可能エネルギー導入状況2

このように、FIT法案によって「再生可能エネルギーが爆発的に普及した」というより、単に「メガソーラーが爆発的に普及した」と言うことができる。

私は一年半前、同法の施行により、その手軽さからメガソーラーばかりに投資が集中すること、買い取り価格は40円前後になること、建設費抑制のため中韓パネルが多く採用されること等を予測したが、すべて的中した。

そして、その買い取り価格がもともと市場基準では大幅な逆ザヤであり、それを賦課金という形で広く薄く消費者に転嫁することでごまかしているに過ぎず、よって建てるほどに実質損害が膨らむことを警鐘した。

ようやくその具体的な数字を明らかにすることができる。



18兆円の支出でたった原発3基分

現在、メガソーラーの建設費は1万kWあたり30億円弱だ。ただし、建設(契約)ラッシュにおける量産効果を考えると、上の設備は平均「30億円」とするのが妥当だ。一方、年間の発電量は、約1千時間という日本の国土上の平均基準を適用すると「1千万kWh」となる。これを電力会社が1kWhあたり、3月末までは42円、以降は36円+税で買い取る。20年間固定制なので、42円の場合は合計「84億円」だ。

つまり、企業は、出力1万kWのメガソーラーを建てると、30億円の初期投資に対して、84億円の収入がほぼ保証される形になる。

メガソーラーは一度建ててしまうと、あとは無燃料・無人運営なので、維持費が安い。一般に総コストの8割が建設費と言われる。つまり、84億円の売上げのうち、最終的には半分程度が利益になると考えられる。

しかも、土地と資金さえあれば、建設から維持・運営までメーカーサイドでやってくれるので、異業種でも参入障壁はないも同じ。参入ラッシュが起きる道理である。

さて、これが1937万kWだと、どういう数値になるか(*今4月以降の設備に関しては36円+税/1kWhで計算)。賦課金の総額はなんと「16兆2156億円」である。

しかも、これは今年の5月末時点の話だ。今も毎月数十万kWのペースで新規の設備認定が進んでいる。ということは、本年2013年度末で、だいたいメガソーラーの設備容量は約2150万kW、賦課金の総額は18兆円弱に到達すると予想される。

「でも出力が2150万kWもあるんだろ? 原発21基分だろ? やっぱりFIT法案のおかげで一挙に原発の代替が進んだじゃないか」……さすがに今時、こんな勘違いをしている人はほとんどいないと思う。

出力というのは単なる瞬間値にすぎない。商用電源として重要なのはそれに稼働率を掛けた「年間発電量」である。

ソーラービジネス基準でいうと、2150万kWの太陽光発電設備から生み出される電力は年間に215億kWh。これは100万kW級の原発3基分にすぎない。年間1兆kWhの電力需要からすると、わずか2%分。しかも、発電の安定性・自在性がないので、実際の供給面においてベースやピークの役割を担えるわけではない。需要と同期させるためには、それこそ分単位で火力やダム式水力と組み合わせることが不可欠だ。

つまり、われわれ電力消費者の立場からすると、これから20年の間に約18兆円を支払う約束をさせられたが、そのうち半分の9兆円は企業側の丸儲け。しかも、実際に建設される発電所は原発3基分の働きしかなく、供給はお天気まかせというのが実態だ。

さらに言うならば、以上はあくまでメガソーラー分。住宅用の太陽光や、風力・バイオマスなどの分も含めると、約20兆円の請求書が本年度中に仕上がると思われる。

私はFIT制度の問題を取り上げた際に、同時に費用対効果の観点から、今は「地熱発電」と「火力の高効率化」にエネルギー関連の投資を集中すべきだと訴えた。その観点でいうと、日本は最悪の選択をしてしまっただけでなく、縁もゆかりもない外国企業に濡れ手で粟の暴利を貪らせる機会を与えてしまった。「原発利権はけしからん」と、そう主張していた人たちが創り上げたのは、何のことはない、「メガソーラー利権」だったのではないか。

2013.10.7 追記:訂正

賦課金の算出に「回避可能費用」が勘案されていないとのご指摘をいただきました。これは私のミスです。下表のように制度スタート時には、同費は全国平均で1kWhあたり約6円でしたが、現在は約8円に上昇しています。これを基準にしますと、買い取り価格42円のうち、8円が電力会社負担となり、消費者への賦課金はそれを引いた34円です。つまり、「電力会社+消費者」では5月末時点で16・2兆円の負担ですが、後者だけなら約13兆円になります。間違いを明らかにする意味でも記事はそのままとし、当追記をもって訂正とさせていただきます(*もっとも、電力会社の経費は基本料金や従量料金から出ているので、請求項目が別れただけと見なすこともできます。つまり、結局は電力消費者が42円を支払っていることには変わりないと思われます)。以上、読者の皆様にお詫び申し上げます。

回避可能費用

2013年10月03日「アゴラ」掲載

(再掲時付記:今にして思えば、アゴラは、メガソーラー批判の急先鋒でしたね。論者が裏で申し合わせていると勘ぐっている人も多かったようですが、事実としては、それぞれが勝手に投稿して、勝手にモノを言っていただけです。私も「現実的自然エネルギー派」として、国がメガソーラーの量産に向かうことを批判してきました。人々から集める貴重な資金だから費用対効果が大切なんだ、地熱・小水力・バイオマス・沿岸洋上風力・将来的には海流発電などに振り向けるべきだ、と口を酸っぱくして主張してきました。

結局、今頃になってそういう方向に国の政策が軌道修正されましたが、最初のボタンの掛け違いはこれからも尾を引くでしょう。日本の自然エネルギー賛成派の、おそらく9割以上は、孫・飯田氏を支持し、「ドイツに学べ」と言うFIT支持派だったと思います。彼らは、自然エネルギーの普及自体には賛成しながら、一方で「ドイツに学ぶな」などと言い、孫・飯田氏とFITの反対に回った私という存在が、どうしても理解できなかったようです)

 

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