ノストラダムス予言の「アンゴルモアの大王」の意外な正体

予言・予知




世界一有名な予言者と称しても差し支えないのが16世紀フランスのノストラダムスだが、その彼のもっとも有名な予言はというと、やはり次の四行詩ではないだろうか。

  1999年、7か月、

  空から恐怖の大王が来るだろう、

  アングーモワの大王を蘇らせるために。

  その前後、マルスは幸運によって統治するだろう。

(百詩篇集 第10巻72番 山津寿丸氏訳)

この予言のせいで、「1999年に人類が滅亡してしまうのではないか」などと無意味に恐怖した人も少なくなかった。とりわけ「恐怖の大王」と「アングーモワの大王」なる存在が不気味に感じられ、昭和の世代は様々な憶測をめぐらしたものである。

ちなみに、フランス語に詳しい山津氏の訳ではより原文に近く「アングーモワ」となっているが、日本ではノストラダムス・ブームを起こした作家の五島勉氏の影響もあり、「アンゴルモア」のほうが一般になじみがある。

この“アンゴルモア”の正体については諸説が噴出した。

たとえば、ある研究者は「初めて原爆が試験されたアラモゴルドのことを指しているのではないか」という説を唱えた。つまり、この予言は核兵器で人類が滅亡することを暗示しているというわけだ。また、別の研究者は「これはモンゴルのことを示唆しているに違いない」と訴えた。かつてのモンゴル帝国の位置にあるのはロシア(冷戦時代はソ連)なので、これは同国を暗示しているという推理だ。

まさに百家争鳴だが、米ソ全面核戦争の危機が囁かれていた冷戦当時の時代背景を考えると、多くの人々がこれらの説に信憑性を感じたのも無理はない。

では、この「アングーモワ」なる名称は、実際には何を意味しているのだろうか。

実は、これはただの地名なのである。上記の研究者・山津寿丸氏によると、フランス南西地方にあるシャラント県の県庁所在地としてアングレーム(Angoulême)という都市があり、その周辺の地方名がまさにアングーモワ(Angoumois)なのだという。そして、旧制度下のアングーモワ州とシャラント県の範囲はおおむね一致するそうだ。

実はフランス史上、このアングレーム領の出身で、ノストラダムスと同時代人であり、かつ「大王」と称された人物がいる。それがフランソワ1(在位1515~47年)だ。

Francis1-1.jpg From Wikimedia Commons

Francis1-1.jpg From Wikimedia Commons

ここまで条件が揃っていれば、「アングーモワの大王」はフランソワ1世を意味していると考えるのが普通ではないだろうか。しかも、ノストラダムスは、1世の息子であるアンリ2世に対して自らを「従順なしもべ」とへりくだり、手紙をしたためているのだ。

すると、上記の予言詩は「フランソワ1世を蘇らせるために空から恐怖の大王が来る」と謳っていることになる。もっとも、これでは依然として意味不明だ。

焦点はやはり「恐怖の大王」の正体だろう。このキーワードを解かない限り、結局、詩の意味は何一つ分からないようだ。

実はフランス語の原文では、アングーモワの「大王」も、恐怖の「大王」も共にgrand Royと表記されている。このgrand(グラン)は英語のgreat(グレート)と同じ意味だ。つまり、「偉大な王」と記しているわけだから、否定的な意味で使われているとは考え難い。どうやら「恐怖の大王」とは、その名前とは裏腹に何か偉大な存在を暗示しているようだ。果たして、その正体は何だろうか?

また、四行目の「その前後、マルスは幸運によって統治するだろう」とは、どういう意味なのだろうか?

さらに、この四行詩全体として、われわれに何を訴えているのだろうか?

これまで日本中が侃々諤々の論争を展開してきた。

実は、真相は意外なものだった。続きは、拙著神々の予定表』まで。

2016年9月14日「トカナ」掲載

(*題名・見出し等は少し変更してあります)

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