前回、ユダヤ民族が出エジプトの際に神と交わした恐るべき「呪いの誓い」について報告した。だが、その際、モーセは、実はとんでもない契約まで交わしていた。
■未来のユダヤ世代まで担保に入っていた呪いの契約
「わたしはあなたたちとだけ、呪いの誓いを伴うこの契約を結ぶのではなく、今日、ここで、我々の神、主の御前に我々と共に立っている者とも、今日、ここに我々と共にいない者とも結ぶのである。」(申命記29:13~14)(太字筆者)
この時、すべての民がモーセの前に呼び集められていたから、「ここに我々と共にいない者」とは、おそらく未来の世代のことを指していると思われる。
つまり、「呪いの誓い」は子々孫々、未来永劫にわたって有効というわけだ。モーセは未来のユダヤ人の運命まで担保に入れていたのである。だから彼は執拗に警告した。
「もしあなたが心変わりして聞き従わず、惑わされて他の神々にひれ伏し仕えるならば、わたしは今日、あなたたちに宣言する。あなたたちは必ず滅びる。ヨルダン川を渡り、入って行って得る土地で、長く生きることはない」(申命記30・17~18)(太字筆者)
もちろん、この時点では、人々はこのような災いが本当に降りかかってくる未来など知る由もない。だから、警告されたところで現実感があるはずもなく、「まだ建国する前からモーセの爺さんは何を煽っているんだ? ボケたのか?」などと呆れていたに違いない。
だが、人々があんぐりと口を開けている一方で、神だけは将来の出来事を何もかも見通していた。神はモーセに対して、こう冷酷に言い放ったのだ。
「あなたは間もなく先祖と共に眠る。するとこの民は直ちに、入って行く土地で、その中の外国の神々を求めて姦淫を行い、わたしを捨てて、わたしが民と結んだ契約を破るであろう。その日、この民に対してわたしの怒りは燃え、わたしは彼らを捨て、わたしの顔を隠す。民は焼き尽くされることになり、多くの災いと苦難に襲われる。」(申命記31・16~17)(太字筆者)
預言者であるがゆえ、モーセだけは、この神の言葉を噛み締めていた。
モーセは「約束の地」に入る直前、次のように言い残して、120歳で死んだ。
「わたしには分かっている。わたしの死んだ後、あなたたちは必ず堕落して、わたしの命じた道からそれる。そして後の日に、災いがあなたたちにふりかかる。」(申命記31・29)
■そして3500年前の予言は20世紀に成就した!
さて、こんな大昔の話をされても、と思う人もいるかもしれない。ところが、モーセの予言は、われわれ現代人も無縁ではなかったのだ。モーセは次の予言も残している。
(以下、太字筆者)
「これらの呪いは、ことごとくあなたに臨み、付きまとい、実現して、ついにあなたを滅びに至らせる。あなたの神、主の御声に聞き従わず、命じられた戒めと掟とを守らなかったからである。これらのことは、あなたとあなたの子孫に対していつまでもしるしとなり、警告となるであろう。」(申命記28:45~46)
「わたしがあなたの前に置いた祝福と呪い、これらのことがすべてあなたに臨み、あなたが、あなたの神、主によって追いやられたすべての国々で、それを思い起こし、あなたの神、主のもとに立ち帰り、わたしが今日命じるとおり、あなたの子らと共に、心を尽くし、魂を尽くして御声に聞き従うならば、あなたの神、主はあなたの運命を回復し、あなたを憐れみ、あなたの神、主が追い散らされたすべての民の中から再び集めてくださる。(略)あなたの神、主は、かつてあなたの先祖のものであった土地にあなたを導き入れ、これを得させ、幸いにし、あなたの数を先祖よりも増やされる。」(申命記30・1~05)
要するに、モーセはこう言ったのだ。
――モアブの地で交わした呪いの誓いは、結局は実現してしまうだろう。このことは子孫に対して神の戒めを守らなかったことの警告となる。だが、おまえたちが追放先でそれを思い出し、改心するならば、運命は改善し、神が再び先祖の土地に集めてくださるだろう。しかも国を得られた上、幸せにし、先祖時代よりも国民が増えるだろう……。
そして、歴史はまさにこの通りに動いたのである。
19世紀末に近代シオニズムが興り、ユダヤ人たちがパレスチナに続々と帰還した。それは1947年のイスラエル建国へと結びつく。現在、同国はかつてなく繁栄している。
驚くべきことに、モーセは約1600年後の国家滅亡まで予言していたのみならず、約3500年後の再建まで予言していたのである。
■なぜイスラエルの正体は「ロスチャイルド朝」なのか?
いや、正確には「歴史がこの通りに動いた」という受動的表現より、この預言を実現すべく、ある者たちが積極的に動いたという能動的解釈が正しい。
モーセが神と交わした契約は、未来のユダヤ人にも有効だと述べた。
実は、その契約のバトンを受け継いだのが(正確に言うなら受け継いだことを歴史的に証明してみせたのが)誰あろう、かのロスチャイルド家だったのである。
事実、パレスチナでのユダヤ国家の再建を認めた1917年の「バルフォア宣言」は、当時の英国外相アーサー・バルフォアが、第一次大戦における英国の戦費を担ったライオネル・ロスチャイルド男爵に対して、個人的に送った書簡として有名だ。
周知の通り、シオニズムのスポンサーを務めたのがロスチャイルド家だ。教科書的な歴史では、1897年、テオドール・ヘルツェルたちがスイスのバーゼルで第1回世界シオニスト会議を開催し、そこからシオニズムがスタートしたと解説されている。しかも、ロスチャイルド家は、あくまでシオニストたちに協力を請われたから援助したのだ、と。
だが、これはまったくのプロパガンダで、実は「バーゼル綱領」の原型となる方針は、その半世紀も前にロスチャイルド家が中心となって決定したものだ。ただ、そのイスラエル再建プロジェクトは、信じ難い困難に満ちていた。なにしろ、当時、パレスチナを支配していたオスマン帝国を弱体化させるところから始めねばならなかったからである。しかも、オスマン帝国を切り刻んだ後は、イギリスにパレスチナの後援者をやらせなければならなかった。そして、ユダヤ人を中東に移住させるために、ロマノフ朝に監禁されているユダヤ人にはロシア革命を通した「解放」を、欧州に安住するユダヤ人にはナチスを通した「迫害」を、それぞれ与えねばならなかった(*厳密に言うとロシア革命には十もの目的が隠されているが、詳細は機会を改める)。これが「裏」から見た歴史である。
そして、ロスチャイルド家が中心となってイスラエルの再建が果たされた。それはモーセの預言と神の約束が実現した瞬間でもあった。この事実の「歴史的意味」を本当に理解している人は、世界的に見てもインナーの人間を除いては、ごくわずかしない。それはユダヤ的には「ロスチャイルド家が“第二のモーセ”となった」ということである。
1936年に生まれた四代目の同家の当主は「ジェイコブ」と名づけられた。正式名ナサニエル・チャールズ・ジェイコブ・ロスチャイルド第4代ロスチャイルド男爵、Nathaniel Charles Jacob Rothschild, 4th Baron Rothschildである。実は、ジェイコブとは、ヘブライ語で「ヤコブ」のことだ。旧約聖書によると、ヤコブとはイスラエル12部族の祖で、しかも単純にいえば、神から中東全部をやるぞ、などと約束された人物である。
むろん、ヤコブというのは、ユダヤ人ではよくある名だ。しかし、ロスチャイルド家となると、やはり意味深である。実際、イスラエルが再建されると、世界のユダヤ人ネットワークは、離散した支族を探し始め、12部族を再び祖国に集結させようとしている。
いずれにしても、ロスチャイルド家が、第二の建国の祖または第二のモーセとなった歴史的意味は衝撃的だ。それは、彼らがユダヤ世界で「現代のレビ族」となったということを意味するからである。今では、ロスチャイルド家だけを見ると、いかにも“没落”している印象さえ受けるが、実際には「拡散した」状態にあり、広い意味でのロスチャイルド集団と化しつつある。だから、ロスチャイルドとか、ロックフェラーとか、「一家族」だけを凝視していると必ず本質を見誤る。本当は、世界を支配する何十もの有力ファミリーが婚姻関係を通して次第に「一つの集団」にまとまろうとしているのが現実なのだ。
旧約聖書によると、だいたい5~6万人程度なら「一部族」として扱われている。驚くべきことだが、金融一族たちの動きを俯瞰的に見ると、これを現代又近未来に再現しようとしているとしか思えないのである。つまり、次々と合流して、一つの閨閥を形成し、「世界支配部族」又は「世界支配階級」を創ろうとしている、ということだ。だから「何々家が世界を支配している」とか、「ロスチャイルドVSロックフェラーの二極対立」などの見方は、物事の表面しか見ていないもので、真実からは大きく外れている。
これこそ、モーセとユダヤ民族が神と交わした契約の果てにある真相なのである。
2016年9月12日「トカナ」掲載
(*題名・見出し等は少し変更してあります)
スポンサーリンク