洋上発電という日本の切り札(前半)

エネルギー問題
IHI構想の海流発電




自然エネルギーを「ポテンシャル・技術的・経済的・社会的条件」等の基準で個別に精査し、その長所・短所を把握し、かつ日本の自然環境と照らし合わせてみると、発電量における自然エネ比を増やしていくためにもっとも効果的な道筋が見えてくる。

それは第一に「地熱発電」、第二に「風力発電」に投資することである。対して、もっとも効果が低いのが「商用メガソーラー」への投資だ。なんで「太陽光発電」と記さないのかというと、個産個消や地産地消に用いる場合は無問題だからである。他の国はともかく、日本の状況からすると、あくまで私の判断では、このような順番になる。

おそらく、このように優先順位をはっきりつける主張に対して、違和感を覚える人もいると思う。だが、私は逆にそれを忌避したことが深刻な問題を招来していると危惧している。巷間の議論で非常によくないのは、自然エネルギー肯定派はあらゆるそれを肯定したがるのに対して、否定派は逆にすべてを否定的に見ることだ。各種自然エネルギーを一緒くたにして論じることは極めて乱暴であり、論争の舞台を早急に個々次元に移す必要がある。

そうすれば、今現在、投資の大半が商用メガソーラーに集中している状態が、競馬に例えれば一番の駄馬にチップを張っているに等しいと分かるはずだ。あるいは、会社が一番高い給料を有能な正社員ではなくフリーターに支払っているに等しい。日本は概して自然エネルギーの豊富な国だが、その活用法を間違えていたのでは何の意味もない。原資がわれわれの電気代であることを思えば、これは本当に笑えない大きなミスである。

ただし、とりわけ技術的・経済的条件は時代と共に変化するので、このような順位もまた将来的には入れ替わる。商用メガソーラーでも、「蓄電池込み1kWh=20円以下」くらいなら一応はグリーンライトだと思う。要するに「商用メガソーラーは時機ではないから今は待て」と言っている。この「機を間違えた」ことは必ず深手になり、関係者はのちに責任を追及されよう。この初動のミスを挽回するためにも、「より経済的な自然エネルギー」への進出を早め、投資の比重を早急に移すべきだと考える。



海流は地熱をも超える日本最高の自然エネルギー

さて、以前「原発の代わりが務まる自然エネルギーは今のところ地熱だけである」という記事を書いたが、なぜわざわざ「今のところ」と断ったのかというと、近い将来、この条件に当てはまる発電方法がもう一つ現れると確信していたからである。それこそが以下に紹介する海流発電に他ならない。まだ実用化していないが、私の直感はこれが将来的に一番有望な自然エネルギーだと訴えている。そして実用化する日はそう遠くない。

流体の運動エネルギーは非常に力が強く、エネルギー密度は風の数百倍とも言われている。つまり、太陽光や風力よりも面積や容積あたりの発電力が大きい。日本はたまたまこの「海流」に非常に恵まれている。これは地熱同様、日本の「地の利」である。とくに有望なのが太平洋沖の黒潮だ。気象庁によると、黒潮は「毎秒2m以上に達し、その強い流れは幅100キロにも及び、輸送する水の量は毎秒5千万トン」に達するという。

下図を見てほしい(上:気象庁「日本近海海流」/下:海上保安庁海洋情報部「海況」)。

海流あ

海流い

このように、沖縄から房総半島沖にかけて、数ノット以上の流速が続いている(*1ノット:1時間に1海里(1852m)の速度)。

しかも、幅が100キロというから、その巨大なポテンシャルが容易に想像できよう。また、漁業や海運、環境への影響を考慮する必要はあるものの、洋上は国有域であり、やかましい住人がいない分、建設普及の社会的条件についても恵まれている。

ネックはむろん「技術的条件」だ。なにしろ未だ研究開発段階である。したがって、経済性に関しても、今は予測の域を出ない。だが、すでにいくつかの試作機が稼動している。また、浮体式風力発電の実証試験も始まっており、これは海流発電にも応用が利く。私の予測では、商用基が稼動すると、ごく初期のうちに経済性もクリアするはずだ。

大都市圏のすぐそばにある海流

しかも、海流発電には、地熱にはないメリットがある。

第一に、都市直結型の大規模集中型自然エネルギー発電が可能となることだ。

下の図をご覧になってほしい(海上保安庁海洋情報部・上「黒潮」/下「瀬戸内海流速」)

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海流え

以上のように、少し大げさに言えば、「都市の眼前」に巨大な海流がある。とりわけ着目すべきは、三大都市圏の近海が海流発電の適地である事実だ。首都圏の電源としては、三宅島から八丈島のあたりが有望になる。上図のように、伊豆半島の石廊崎や房総半島の野島崎から三宅島までは、だいたい70キロ前後だ。また、犬吠埼の東沖の海流も有望なようだ。一方、関西と中部経済圏ならば、紀伊半島の潮岬が共通のポイントになる。すぐ沖に黒潮があるので、海底ケーブルは非常に短くてすむ。他にも、四国ならば足摺岬と室戸岬、九州ならば宮崎県都井岬と種子島・屋久島などから、すぐに黒潮に手が届く。

むろん、海流は太平洋側の黒潮だけではない。下図のように、黒潮ほどではないが、瀬戸内海も有望だ。広島、岡山、松山、高松など、内海各都市の電源になりうる。また、三大都市に並ぶ北九州・福岡圏も、海流に恵まれている。壱岐との間にある壱岐水道、玄界灘、響灘、関門海峡(水道部分はもちろん使えないので、その前後の海域)などが有望だ。そもそも九州北部は、日本海側を流れる対馬海流の舳先にあたる。能登半島からもその対馬海流に容易にアクセスできる。青森や函館ならば、津軽海峡が有望だろう。

今日、自然エネルギーに関しては、「これからは大規模集中型から小規模分散型だ」とか「地産地消の時代だ」ということが、よく謳われる。だが、事の本質は、「どちらがよいか」ではなく、一番合理的なのは「その地域の需要規模に見合った電源をなるべく地元に持つ」ということである。だから、田舎の町や村は、小さな発電所で地産地消するのがよい。

つまり、郊外は小規模分散型がふさわしい。対して、大都市は、自然エネルギー発電であっても、なるべく大規模集中型のほうが望ましい。大都市の電源として、無数の小さな太陽光や風力発電所があちこちに散らばっている状態は非効率であり、避けるべきである。

需要地の形態に応じて、両方を使い分けるという発想が必要だ。一般に自然エネルギーでは都市向けの大規模発電が困難だが、それを可能にしてしまうのが海流発電である。

素早く設置可能、個数で需要規模に対応可能

IHI資料より

第二に、素早く設置可能という点だ。地熱を含めたあらゆる発電方式の中で、もっともリードタイムが短いかもしれない。なにしろ、工場から設置ポイントに完成品を直送し、そこに係留して配線するだけだ。環境アセスメントや立地対策による遅滞もない。あったとしても、短期で済むだろう。また、ダムのように、建設の困難につけ込んだ、政治家・地元役人・地元住民の三者によるタカリもない。つまり、時間やコストの浪費がない。私は個人的に漁業補償などというものも、例外を除き不要だと思っている。海は漁師のものではなく、みんなものであり、公益利用がすべてに優先される。

第三に、需要規模に対して、個数の増減で柔軟に対応できる点だ。地熱発電の場合、基本はその土地に合ったオーダーメイドであり、建設後も同地域内での井戸やタービンの増設は容易ではない。それに対して、(とくに太平洋側の)海域は非常に広大で、発電機が量産モジュールであるため、特注の必要性はなく、必要な個数だけ引っ張ってくればよい。よって、海に面したいかなる都市の電源であっても容易に整備可能だ。このことから、海流発電は、日本の多くの都市の電源に比較的早期に替われると予想される。

以上のように、海流発電は、間欠性でない同じ安定した発電でありながら、地熱より幾つかの点で優れた特徴を有する。対して、デメリットはというと、漁業や海運への影響、あとは送電コストの増加くらいである。それでも、日本列島の両端から三大都市圏まで大容量の高圧送電線を引っ張ってくるよりはマシだろう。また、一部では、抵抗物の設置が海流を遅滞させ、地球環境に悪影響を及ぼすとの懸念もあるようだが、海流というのは惑星規模の運動から生じているものらしく、あまり心配する必要はないと思われる。

(後半へ続く)

2012年07月17日「アゴラ」掲載

 

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