メガソーラーの建設費は、出力1万kWあたり50億円前後である。対して、地熱発電所だと6~70億円もかかる。しかし、太陽光の稼働率は年間12%程度だが、地熱なら80%前後だ。よって、同じ出力でも、地熱は太陽光より6~7倍も多く発電できる。
これは何を意味するのだろうか。「同じ1億円を電源開発に出資しても、地熱のほうが太陽光よりも5~6倍も投資効果が高い」ということだ。メガソーラーなら電力需要の1割を担うために50兆円もの建設費が必要だが、地熱なら10兆円以下ですむ。しかも、メガソーラーは曇りや雨の日のためのバックアップ電源が不可欠だが、地熱は天候に関係なく安定発電するので、実際の両者の経済性はもっと開くと考えられる。
ポテンシャルが巨大な地熱発電
一般に供給安定性や自在性があるために蓄電池などが不要な、つまり追加投資なしで今ある電力システムにそのまま取り込める自然エネルギーが、水力・バイオマス・地熱などである。この三つは発電技術や経済性の点でも問題がなく、どんどん建てていっても構わない。しかし、水力とバイオマスは「ポテンシャル」面で制約を受ける。巨大ダムに代表されるような大型水力の建設立地はもはや枯渇し、残りは現電力需要の数%分しかない。一方で中小水力は今後の地産地消用として有望だが、それでも電力需要の数%分しかない。また、バイオマス発電は火力に適した乾燥系と、ガス発電に向いた湿潤系があるが、やはりどちらの資源量も電力需要の数%分しかない。これは水力とバイオマスの資源量が乏しいというより、そもそも国土に比して人口(エネルギー消費者)が多すぎると解釈すべきである。
では、地熱のポテンシャルはどの程度あるのだろうか。マスメディアでいつも言われるのが「日本の地熱資源は世界第3位の2347万kWだ」という決まり文句だが、これでは極めて説明不足だ。この数値は、産業技術総合研究所の地熱資源研究グループの試算だが、同所は「150度以上の熱水系」と断っている。これより低い熱水資源や、熱水でない資源も、ちゃんと存在しているのだ。120度以下の量なら833万kWが賦存。09年の環境省調査ではその中間(120~150度)が追加され、110万kWと推定された。こういった低温熱水はバイナリー発電に向いている。以上を合計すると、熱水系は電力需要の23%ほどのポテンシャルがあると推定される。
また、熱水でない「高温岩体」も地熱資源だ。だいたい地下2~3キロで、地熱2~300度が対象となる。簡単にいえば、そこに水を圧入して破砕・熱水化し、別のパイプで蒸気を取り出して発電する。使用後の蒸気はまた水にして地下に戻し、循環させる。すでに80~90年代に実証実験が日本でも成功しており、技術的にはほとんど確立されている。(財)電力中央研究所・地圏環境部によると、資源量の豊富な16地域だけでも3840万kWの発電が可能だという。これは電力需要の約27%に相当する。さらに、この先には「マグマ発電」までが控えている。これを本格利用すると全電力需要が地熱だけでゆうに賄える計算になるが、さすがにこれは慎重にやったほうがいいと思う。
何が地熱の開発を妨げているのか?
このように、地熱は、ポテンシャル・発電技術・経済性の三つの関門をとうにクリアしている。では何が問題なのか。それが「社会的条件」である。高温地熱資源の8割が国立国定公園の開発規制区域にある。温泉屋と自然保護団体も開発に反対している。環境省はようやく今年の3月になって、規制区域内での開発(垂直掘削)を条件付で認めた。だが、環境アセスメントが依然厳しい。この環境規制こそが地熱開発の最大の障害である。
たしかに、地熱発電は公園内の自然や景観を部分的に破壊する。多くは山奥の辺鄙な場所にあるので、立地開発だけでなく、アクセス用の道路や送電線の敷設も必要だ。だが、人間が文明生活をする以上、ある程度の自然破壊はやむをえないのではないか。それが許されないというのであれば、町や道路さえ造れないし、日本人は日本列島から出ていくしかない。だいたい、石炭やウラン鉱の露天掘りのほうが、もっと大規模に自然を破壊している。それに比べたら地熱に伴う環境“破壊”など、かわいいものである。
ところで、地熱発電にはもう一つネックがある。それがリードタイムの長さだ。たとえば、今から開発に着手したとしても、オープンするのは6~8年後だ。つまり、その間は支出の一方通行となり、それだけ事業がリスキーとなる。再生可能エネ法はもちろん地熱も対象としているが、発電ベンチャーは投資回収の観点から、数ヵ月後には売電収入が発生する、実質“不動産業”のメガソーラーに集中するだろう。地熱に進出するのは、おおむね一部の旧財閥系の重厚長大企業となる。それでも地熱は年間発電量が多いので、一見すると儲かりそうだが、まったくありがたいことに、他の電源開発と儲けが「公平に」なるよう、買取価格は安く抑えられるだろう。全量買取の価格と期間を決める経産省の「調達価格等算定委員会」は、そもそも自然エネルギーの政治的な取捨選択をする機関ではない。よって、今7月に施行されるFITでは、地熱への参入は比較的少ないと思われる。
私が政治家ならばこうする
私には、まさに政治の出番であるように思えてならない。地熱開発は、国立公園法や森林法・自然保護法、掘削では温泉法、運営面では電気事業法などの縛りを受ける。だが、対象となる地域の多くは公有地なので、法律の縛りさえなくせば、土地の買収等がない分、むしろ開発はやり易い。
そこで私は、これらの法律の条文の最後に、「国のエネルギー政策に基づいて環境大臣が開発を認める限りは以上の項目の限りではない」という趣旨の、ごく簡単な項目を付け足す修正法案を提案したい。これが成立すれば、実際の開発に際し、大臣が片っ端から許可印を押せばいいわけで、法律などあってないようなものだ(笑)。
また、上記の理由からFITではあまり参入が見込めないので、数値目標を設定して電気事業者に地熱開発を義務付ける新RPS法の制定も提案したい。むろん、電力会社にだけ財源を背負わせるのではなく、エネルギー対策特別会計費も突っ込む。原発が減っていくこれからは、どうせ立地対策費など不要なのだから、すべて地熱開発に回せばいい。地元自治体に対しては、新たに「地熱開発促進法」などで縛りをかける。道路や送電線の新設、反対者への説得などで、事業者にしっかり協力しなければいけませんよ、というわけだ。このようにして社会的条件を改善することで、地熱開発はもっと進むだろう。
原発の最有力代替電源としての地熱
さて、来月にも原発全基が停止するという。このまま再稼動しなければ、実質「即時全廃」に入っていくのと同じだ。対して、仮に再稼動しても、現実問題として新規建設はありえないわけで、結局は「ゆるやかな脱原発」へと向かっていく。
つまり、われわれの目前にあるのは、「即時全廃」か「ゆるやかな脱原発」か、どちらかの選択である。後者の場合、厳密には「幾らか残す」と「全廃する」の二通りがあるが、今はとりあえず再稼動するか否かが焦点だろう。
どの選択が正しいか、の議論は、今はよそでやってほしい。私が言いたいのは、どちらにしても「代替電源」が不可欠だということだ。本稿の趣旨はこの現実問題への対処である。
原発の欠落によって、われわれが直面する問題は、エネルギー安保やCO2削減の課題もあるが(と言うと、「原発建設や核燃料生産でCO2を排出する」という既知の事実を得意げに語り始める人がいるが、その分は産業部門でしっかりカウントされているし、量的にも非常に少ない)、何はともあれ「電力ピークと発電量」への対処が最優先課題である。
一、1億8千万kWもの需要ピークをどう乗り切るか。
二、年間3千億kWhもの量的欠落をどう埋めていくか。
これまで対症療法として節電や旧式火力の復活などが行われてきた。私の考えでは、火力や水力(含む揚水)の合計設備容量がわずかに最大需要を上回る程度なので、現実稼働率からすると、今夏のピークには届かない。しかしながら、昨年の夏に東電管区で2割の節電が可能だったことから、今夏はこの対策を全国区で実施し、かつ火力を増設することでピークを乗り切れる可能性が高い。だが、真の問題はむしろボディブローのように効く「量的欠落」あるいは「役割的欠落」(*ベースロードのこと)のほうである。
これをどうするか。燃料費の急増は、国富流出・家計と企業の可処分所得減と同義であるため、誰も望んでいない。できれば国産たる自然エネルギーの役割を拡大したい。だが、原発の代替適格条件となると、ことのほか厳しい。
1・電力需要の3割に相当する3千億kWhを賄えるポテンシャルがある。
2・24時間の安定発電が可能であり、ベースロード電源を担える。
3・1kWhあたりの発電コストが10円前後と、比較的安い。
上記の1~3までクリアしているのは地熱だけである。風力は2の点で欠格であるが、経済性でいえば、メガソーラーよりは、はるかにまともな選択である。冒頭のように、地熱ならば10兆円以下の建設費で、電力需要の1割を担える。総コストベースでは、原発の経済性とほぼ同程度である。時間をかければ、地熱発電だけで今ある原発の代替も不可能ではない。むろん、何も地熱一辺倒ではなく、水力とバイオマスのように、経済的で揺らぎのない他の電源の開発も平行して進めるのが正しい。
ちなみにだが、「あれれ? もしかして核燃料サイクル計画に投じた資金を最初から地熱開発に回していればよかったんじゃね?」という無邪気な突っ込みは、なるべく控えてもらいたい(笑)。戦艦大和もそうだが、あとになってから何かを裁くということは簡単なことだ。むしろ、その突っ込み力は、「よっしゃ、原発の代わりに太陽光でいくぞ」と気勢を上げたお馬鹿な総理大臣や著名な実業家に向けてほしいものである。
選択と集中――必勝の代替策
このように、現状の危機に対する答えは地熱であって、決してメガソーラーではない。しかし、地熱は、今言ったようにリードタイムが長い。今から国策開発して、続々と発電所が立ち上がるのは6~8年後である。では、今、即効で効果がある対策は何か? それこそ「火力の発電効率の上昇」である。このような供給サイドの省エネ分は、「ネガエネルギー」といって、実は社会的には電源を新設したのと同じ効果がある。これは短期・中期的な対策として極めて有効である。
今日、火力の平均発電効率は4割だ。原発事故前、火力は6千億kWhを発電していた。よって、平均発電効率を5割に挙げることによって、以前と同じ燃料で1500億kWhを余分に発電することが可能となる。新鋭のコンバインドサイクル発電は6割だ。つまり、新旧基の更新作業によって、平均効率を少しずつかさ上げしていくことができる。CC発電は、原発1基の建設費があれば、1千万kW分を整備できる。しかも、新旧の入れ替えなら1年以内に可能だ。また、CC発電の向こうには、燃料電池を使ったさらに高効率な天然ガス・石炭火力が控えている。商用化を前倒しすることが必要だ。
戦いにおける勝利の秘訣は「戦力の集中・一挙投入」だと言われる。今迎えている危機を克服するための戦力(投資力)は、限られている。タコが脚を伸ばすみたいに、何でもかんでも手をつけていたのでは、有限な官民の投資力は「死に金」と化すばかりだ。要するに、今政府がやっているような対策である。これでは敗北は必至だ。なるべく費用対効果の高い分野へと重点投入すべきである。だが、どこへ投入するか。つまりは「選択と集中」の問題である。そこが手腕の発揮しどころ、頭の使いどころだ。
私は以上のように、「地熱開発」と「火力の発電効率の上昇」の2点に、資金を集中的に投入することを訴えたい。むろん、他の対策をやるなと言っているわけではなく、あくまで中核策はこれだという意味である。これを電力の供給サイドの対策とし、需要サイドのわれわれは、省エネ・創エネなどを粛々と進めればいい。実はこれは前にも言ったことがあるのだ。むろん、このような提案に対し、批判する人、煽る人、たくさん現れるだろうが、私がそうしたように、せめてあなた自身のアイデアを言ってほしいものである。
2012年04月06日「アゴラ」掲載
(再掲時付記:地熱には熱水不要の「高温岩体」利用のものもあり、こちらのほうがポテンシャルは大きいんですね。閉鎖サイクルで熱交換するだけです。熱水資源がないと地熱発電できないというのは、誤った固定観念です。)
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