ブライアン・ワイス博士はアメリカの精神医学者であり、前世療法(past life therapy)の第一人者である。1944年にNYで生まれ、コロンビア大学を卒業後、医者になるべくイェール大学医学部で博士号を取得した。その後、各地の医療現場で経験を積むが、フロリダ州の病院の精神科部長を勤めていた1980年に前世を記憶する患者と出会い、世界観が一変する経験をする。以来、4千人以上の患者を退行催眠によって前世へと遡らせることに成功し、現在でも全米でワークショップやセミナーを開催している。
博士の転換のきっかけとなった退行催眠によって前世を見た女性
きっかけとなった最初の患者はキャサリン(仮名)という。まだ20代の彼女は日々、原因不明の恐怖と不安に苛まれ、人間関係もうまく行っていなかった。
ワイス博士は彼女のトラウマの原因が幼少期の記憶にあると考え、催眠療法を試みることにした。事実、彼女は父親から性的虐待を受けた経験があった。
しかし、“原因”を探り当ててセラピーを行っても彼女の症状はほとんど改善されなかった。そこで博士はさらに催眠療法を続けて、原因となった時まで彼女を遡らせた。
すると、彼女は突然「前世」の体験を語り始めたのである。それは紀元前に洪水又津波で彼女とその子が村もろとも全滅した体験だった。
当初、死後の世界や輪廻転生といった概念をまったく信じていなかったワイス博士は困惑する。医者仲間や医学界からの視線と経歴に傷がつくことを恐れた。しかし、前世にまで遡って患者が真の原因を探り当てることで劇的に症状が改善していく様を目の当たりにし、さらにトランス状態の患者の口を通して亡くなった父親や最初の息子のプライベートをズバリと言い当てられる経験等を重ねて、ついに沈黙を破る決意をした。
それがワイス博士の最初の著作『Many Lives, Many Masters』(邦題「前世療法」下記掲載)である。
幸いベストセラーとなり、輪廻転生とより精神的な生き方への理解に役立っている。
当然、博士には偽の記憶ではないかといった批判が行われている。
たしかに、私たちが睡眠中に夢を見るように、人間の脳には生来「VR」を作り出す能力があり、しかもそれを無意識に行使している。
また、元来プライベートに属し、治療が目的のため、歴史学的な検証例も少ない。
このテーマをさらに胡散臭く印象付けることに貢献しているのが、たとえば日本では、芸能人の過去生を指してミケランジェロやクレオパトラといった歴史上の著名人の名をポンポンと出すタレント霊能者の存在である。欧米にも類似の人間がいるらしい。
ただ、ワイス博士が退行させた患者の例を見る限り、まったく普通の人々か、もしくはそれ以下であることが多い。キャサリンなど、召使いや奴隷の前世が少なくない。死に様も病死・事故死・殺害・貧窮死など、悲惨なものが目につく。そして、患者たちはその時の様子を思い出して、博士の眼前で非常に苦しそうに“亡くなる”。いずれもその直後に自分の身体の上に浮き上がり、ようやく解放されたという想いをあらわにする。
これが「擬似記憶」が否かという議論は、当記事の趣旨ではないため、これ以上は触れない。どうせ受け入れられない人は何がなんでも偽科学のレッテルを貼るだろう。懐疑派の人たちも自分が死んだ時には分かるわけだから、是非とも期待していてほしい。
いずれにしても、退行催眠によって前世を思い出すことが現在の人生におけるトラウマ等を取り除くことに有効であるならば、それでよいのではないか。
2千年前に“ある青年”と一緒に旅をしたワイス博士
さて、ワイス博士は著書の中で驚くべき事例をこれでもかと紹介しているが、中でも「稀に見る奇跡」と呼べるような神秘的で感動的なエピソードをチョイスしたい。
実はワイス博士自身も退行催眠を経験してみたいと思っていた。そこで催眠療法のコースを修了した妻のキャロルが博士を患者に見立てて何度かそれを行った。
非常に鮮明なビジュアルとしてワイス博士がたどり着いた前世の一つは、今から2千年前のアレクサンドリアでの人生だった。そこでの博士は裕福なユダヤ商人の家庭に生まれた活発な若者だった。彼はプラトンやアリストテレスなどのギリシア哲学を学んでいた。
そして、それに飽き足らず、彼はパレスチナやエジプトにあった秘密の共同体を回って教えを乞う旅へと出た。そこには秘教的な知識を継承しているエッセネ派などの団体もあった。博士の一族が彼らを援助していたため、身軽な旅で済ませられた。
ちなみに、エッセネ派とは霊性の向上を目的として共同体生活を営んでいたユダヤ教の一派である。「死海文書」を記した「クムラン教団」もその一つ。また、イエスの教えとエッセネ派の教えが類似していることは指摘されている。
さて、共同体を回る旅を続けて数週間、博士は一人の同年代の若者と知り合い、一緒に旅をすることになった。彼は博士よりも背があり、「深みのある茶色の目」をしていた。賢人たちから一緒に教えを受けても、彼のほうがすぐに理解し、博士が後から教えてもらうほどだった。二人は良い友達になったが、一カ月ほどして別々の道へと分かれた。
この続きがあるが、いったん別のエピソードに移る。
ガンに苦しむ女性物理学者の回想
さて、ワイス博士がこの過去世を体験してから数年後のことである。
ある時、博士が開いた五日間のワークショップにビクトリアという名の50代半ばの女性が参加した。彼女はマンハッタンに住む物理学者で、芸術科学アカデミーの会員でもある。16年間もガンで苦しんでいた。何度も手術をし、抗がん剤治療なども行ってきたが、治癒せず、酷い腰痛に苦しんでいた。ストレスのあまり、彼女の髪は真っ白だった。
ビクトリアは博士のワークショップにより、約2千年前の過去世に戻った。当時、彼女はエルサレムの近郊に住む貧しい農夫で、妻と娘と一緒につつましく暮らしていた。そんなある日、家の前をローマのエリート軍団が行進してきた。「彼」はたまたま怪我をしている鳩を見つけ、介抱しようとしたために、その行進を邪魔してしまった。そのため怒ったローマ兵たちが「彼」を半殺しにして、家に火をかけて妻子まで殺してしまった。
以後、「彼」は障害を負い、精神的にもボロボロになり、掘っ立て小屋で絶望的な暮らしを送った。自作の野菜で辛うじて生きながらえている有様だった。
その頃、あるラビが人々を引きつけつつあった。その「イエシ」という人物の説教を聴こうとしたが、「彼」は異様な風体だったため、いったん弟子から追い払われた。
だが、彼を見たイエシから直接「近くに来てもいい」と言葉をかけられた。
「彼」はイエシの説教に大変心を揺さぶられた。そして、ローマ兵に家族を殺されて以来、イエシは唯一親しく感じられる人物に思えた。
だが、そのイエシは処刑されることになった。「彼」は連行されるイエシになんとか水をあげようとしたが、叶わなかった。
ただ、イエシは振り返って「彼」を見た。その目は己の苦痛をものともせず、慈しみに満ちていた。その時、「大丈夫ですよ。これはあるべきようになっているのです」という言葉がテレパシーとして伝わってきた。
そして、「彼」は沿道にいる群衆の中に、ある人物を見かけた。
二人の科学者が過去生で見た光景が一致、そして奇跡が・・
ビクトリアはワイス博士に言った、「私はそこであなたを見ました」と。
そう、ワイス博士はそこにいた。過去世の彼は「イエシ」が処刑場へと連行される場面を目撃していた。そして、目を見た瞬間、かつて一緒に旅した友人だったと分かった。しかし、博士にできたのは、かつての友人が連行されるのを見届けるだけだった。
当時の彼はエルサレムに滞在しており、依然として裕福で、贅沢な上着を着ていた。
ビクトリアが言うには、彼は「優雅な砂色に明るい赤ワイン色の縞」の入った豪奢な服を着ていた。それはまさにワイス博士が記憶していた当時の自分の姿だった。
ビクトリアはその金持ちの「目」を見た瞬間、ワイス博士であることが分かったと言った。なぜなら、当時の彼は、現代のワイス博士と同じ目をしていたからだ。
そして、彼女が見た当時の場面は、博士が見た過去世の場面と一致していた。
しかし、ワイス博士がその過去生を話したのは三人だけで、彼女が知る由もないことは明らかだった。ましてや彼がどんな柄の上着を着ていたなど!
ビクトリア、つまり「彼」は、イエシの後をよろよろと付いて行った。イエシは十字架で処刑された。「彼」の記憶はイエシが息絶えた直後に飛んでいた。
雨が降る中、「彼」は呆然と立ち尽くし、すすり泣いていた。
その時だった。突然、頭頂に「電気」を感じた。そして、それが脊柱を貫いた。その瞬間、「彼」の障害は癒え、もとの身体に戻っていた。
それが、ビクトリアがワークショップで思い出した2千年前の出来事だった。
そして、その時、彼女が現在苦しんでいた腰の痛みが突然無くなった。彼女は嬉しそうにダンスを踊り始めた。ワークショップの全員がその有様を目撃していた。それからしばらくして、ビクトリアの髪は元の黒髪に戻り、痛み止めの薬も不要になった。
それは2千年の時を超えて彼女の身に起こった奇跡だった。
あるいは「今」と「2千年前の今」で「同時」に起こった奇跡だった。
ブライアン・ワイス博士の著作にはこのような驚異の事例が幾つも登場する。ぜひとも直接、博士の著作に触れていただきたい。
(出典・参考『前世療法』『魂の伴侶』『未来世療法』いずれもPHPより)
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