「反原発派は具体的な対案を出せ」に応えてみる

エネルギー問題
出典:Finance GreenWatchより




以下、原発に対する是非論はひとまず横に置き、一種の思考実験として脱原発のテクニカルを模索してみた、という趣旨でご理解いただきたい。

まず、反原発派の大半は「原発全基を止めても電気は足る」と主張しており、これが即時全停策の有力論拠となっているが、果たして事実だろうか。

今日、電力十社の設備容量は火力が1億2300万kW、水力が3500万kWである。また、電源開発が1700万kW(火力・水力ほぼ半々)で、残る卸電力16社が約1000万kW(ほぼ火力)だ。よって、商用火力・水力の合計設備容量は約1億8500万kWである。新エネルギーの発電量は全体の1%程度なので省く。

これに対して、最大電力需要のほうは約1億8千万kWであり、火力・水力の合計設備容量を下回っている。この事実をもって、「ゆえに原発がなくても電気は足りている」と主張しているのが、反原発派の理論的指導者格である広瀬隆氏と小出裕章氏である。この主張には大震災後、竹田恒泰氏や田中康夫氏らも追随している。

だが、この設備容量というのはフル稼働値だ。火力はボイラーやタービンなどの定期点検を義務付けられている上、老朽化したものは故障も多いので、原発と同じで8割がだいたい稼働率の上限と考えていい。また、ダム式水力の稼働率は3~4割が普通だ。水力は大雑把に分類すると「ダム式」と「流れ込み式」があり、比率はだいたい3:1だ。後者は常に水が「流れ込む」ので24時間発電し続けることができるのに対して、前者は溜まった水量の分しか発電できない。仮にダム式水力の稼働率が8割になったら、それは入力より出力が大きい永久機関になってしまう。むろん、電力各社もできるだけ夏ピークに合わせて発電を先送りしているが、この時期は比較的雨が少ないので限界がある。

以上のことから、「最大電力需要は火力・水力の合計発電可能出力を上回っている」というのが真実だ。つまり、火力と水力だけでは夏ピークに届かない。広瀬氏と小出氏は、そのピークが「真夏の数日の数時間だけなので、仮に不足が生じても自家発からの調達や節電などの需要抑制で乗り切れる」とも言っている。だが、これもミスリードだ。それはグラフの頂点(ピークのピーク)であり、実際には電力需要のピークは7月下旬から8月まで一カ月以上続く。ネットの怖さだが、以上のような両氏の思い違いは“真実”として急速に巷間に広まり、今ではかなりの人が信じてしまっている。

自家発を当てにする発想にも疑問だ。非常用なら燃料を数時間で使い切り、あとは給油車を呼び続ける必要があるので、初めから事業用にならない。対して、生産用の余剰能力は企業としても売りたいはずだ。だが、これも景気に左右され、一ヶ月間もの安定確保の保障がない。実際、電力自由化の第一弾として、95年に卸供給分野が解放された際、日本の名だたる製造業がIPP(Independent Power Producer)として当時割安な石炭火力に参入したが、後に石炭の価格が上がっただけで一斉に事業を投げてしまった。しょせん、商売人とはこんなものである。いざとなれば企業の私物を徴用すればよいという発想も問題だが、こんな時だけ大企業を変に信頼したりすがったりするのもムシが良すぎる。

このように、「原発をすべて止めれば電気が足りなくなるというのは原発推進派が言いふらしているデマだ」という主張のほうがデマなのである。東電管区では足りても、日本全体でいえばやはり足りなくなる。もちろん、全国民・全企業が11年度夏の東京のごとく懸命な節電をすれば夏ピークは乗り切れると思うが、それはまた別の問題だろう。私個人の感情を言えば、「足りぬ足りぬは節電が足りぬ運動」は一度だけでたくさんだ。

要は、原発反対派であれ推進派であれ、前提そのものが事実から逸脱していては本当に有効な対策は生まれようがない。前者の立場ならば、あくまで「原発全基停止で電気は不足する」という事実を前提にして対策を練らねばならない。では、具体的にどうすればよいのだろうか。発電燃料をバンバン輸入して、火力の稼働率を上げていくのか。これは誰でも思い浮かぶ安易な対策だ。だが、これでは原発の存在意義を逆に喧伝するようなものではないか。原発は燃料費率が1割で、支出の大半が国内経済に回る。対して、3兆円の追加燃料費は毎年海外へ逃げ、少子高齢化時代の日本経済の体力をさらに奪っていく。

よって、希求されるのは、原発の年間発電量に相当する約3千億kWhを現実に代替可能で、かつ燃料費の上昇を伴わない策だ。しかも、反対派からすれば何十年も時間をかけてられないので、「可及的に速やかに」も条件だろう。私の考えでは、この三つの条件をクリアする方法が以下だ。

1・1千億kWh分の地熱を開発する。

私の知る範囲では、ポテンシャル・技術・経済性・社会的制約の四つの関門の内、はっきりと経済性までクリアしているのは、六種類の再生可能エネルギーの内で地熱だけだ。風力はグレーゾーンだが、出力変動の欠陥をカバーした蓄電池とのセット価格では明確に不可になる(*再生可能エネに関しては頁を改めよう)。地熱は出力が安定し、そのまま原発の地位であるベースロードにスライド可能だ。ただし、投資の回収が長いので、FIT制度下でも発電ベンチャーは参入を渋る。よって、9電(*除く沖縄)と電源開発の十社に対して、自社開発でも卸電力の買取でもいいから、一社につき150万kW分の確保を法律で義務付ける他ない。出力10万kW級で150基弱、約7兆円の整備費だ。開発区域は大半が国立公園内になり、環境規制などの社会的制約に引っかかるので、法改正も含めて政府・自治体の後押しが不可欠だ。

2・火力の平均発電効率を40%から47%へ向上させる。

これで燃料費は従来のまま新たに1千億kWhを捻り出せる。切り札となるのが最新鋭のCC発電であり、その後に控える燃料電池トリプル発電だ。手段として現実化している前者の方法だけならば、大型火力のほぼ三分の一にあたる50基を入れ替える必要があり、3兆円ほどの経費がかかる。後者が実現すればもっと楽になろう。

3・省エネ努力等で1千億kWh分の需要を減らす。

これは“節電運動”ではない。あくまで現行の「改正省エネ法」や省エネ家電等の普及を地道に続けていくことに拠る結果だ。太陽光発電のプライベート普及による「創エネ」分や人口減少による需要の「自然減」分も考慮してよい。不幸にして景気が悪化すれば、7割を占める企業の需要も急減しよう。

以上、イニシャルコストが十兆円かかるが、1では以後の燃料コストそのものがなく、維持費は浮く。十社が十年間で十兆円の設備投資と考えれば、年間にすれば1千億円程度だ。このように3千億kWhの重荷を一種類ではなく三種類の手段で分かち合う方法ならば、十数年で「本当に」代替が可能ではないだろうか。

2011年12月28日「アゴラ」掲載

(再掲時付記:結局、電力各社は原発を止めた後、休眠状態の石油火力発電所などを復活させて、ピークを乗り切りましたけどね。すでに廃止プロセスに入っていたので、大変だったようです。たしかに原発を止めても電気は「足り」ましたが、それは広瀬隆氏や小出裕章氏の主張した根拠とは違いました。ダム式水力はなるべく夏ピークに合わせて水量を調整していますが、それでも一斉にフル稼働して設備容量一杯の出力を発揮することはないそうです。私の代替案も、後で思ってみれば、かなりの理想論の印象を免れません)

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