洋上発電という日本の切り札(後半)

エネルギー問題
石原孟工学博士の浮体式洋上風力発電システム






洋上風力も同時に活用すべし

しかも、洋上は海流だけでなく、比較的、風況がよいことも分かっている。

一般に、風車は大型のものほど、出力も採算性も高い。だが、大型化するほど設置場所を選ぶ。ここがジレンマだ。近年、風音公害が問題化し、社会的条件がより厳しくなっている。

また、人から見てもっとも人工的だと感じるのが回転運動している物体らしく、その意味で風車は人工物の極致であり、景観破壊のチャンピオンでもある。

これを事業者目線で神経質だと一笑に付すのは容易い。ただ、よそ者が観光気分で眺めるにはいいが、地元の人にとっては深刻な問題に違いない。「経済性ばかりを追求して人間を犠牲にしてはならない」という考えが適用されるのは、何も火力や原発に限った話ではない。生活環境の悪化に繋がりかねない大型風車の建設は問題が多い。だが、人口密度の高い日本では、良好な風況と同時にそのような条件もクリアすることは難しい。

一つの解決策は、洋上に活路を見出すことだ。洋上風力のポテンシャルについては、日本風力発電協会と環境省が近年、調査結果をまとめている。

日本風力発電協会は、洋上風力の適地として、離岸距離30キロ以内で年間平均風速が7m/秒以上の海域を挙げている。賦存量は「洋上着床式」が1億4700万kW、うち建設適地が2割の2900万kW。一方、「同浮体式」が7億7400万kW、うち建設適地が5%の3900万kWとしている。つまり、洋上での導入可能量が合計6800万kWである。これは稼働率4割として、現電力需要の2割超分にあたる。

対して、環境省の算定方法はやや異なる。似た前提条件で、洋上風力(着床・浮体の区別なし)の賦存量を15億7千万kWとした上で、固定価格買取制度を勘案した試算を発表している。ただし、洋上風力の採算性は悪く、買取価格が「1kWh20円・期間20年」というシナリオでも、事業化可能なのは300万kW(0・19%)に留まるとする。だが、技術革新の進展と設備費の大幅縮減を想定すると、1億4千万kW(約9%)に跳ね上がると試算している。これは稼働率4割として、現電力需要の半分に相当する。

この二機関の試算はほぼ同時期であるが、内容はかなり異なっている。ただ、洋上風力のポテンシャルを巨大とする点では一致している。両者とも洋上を30キロ以内に限定し、その外縁にある広大な海域の利用を想定していないが、その狭い海域内の利用だけでも日本の全電力需要が賄えるポテンシャル(賦存量)がある(*イコール導入可能量ではない)。ましてや、それより沖に出れば、無尽蔵の風力資源が賦存するものと想像される。

むろん、技術的・経済的にクリアすべき課題は多い。日本の沿岸は急に海が深くなる場所が多いので、浮体式のほうが、将来性がある。だが、世界的にも浮体式は09年にノルウェーが実証実験を始めたばかりで、日本はようやく実証に漕ぎ着けたばかりだ。

また、沖合ほど送電の問題も大きくなる。送電をせず、その場で水素に変換して運べという人もいる。現時点では、遠洋の利用はまだ徒手空拳に近いのだ。だが、技術的・経済的な課題がクリアされると、電力部門におけるエネルギー問題が一挙に解決に向かうことも事実である。

太田俊昭・九大名誉教授の海上ウインドファーム構想

風力・波力・海流タービンをひとまとめにした「洋上三重発電機」

このように、洋上にはたいへん風況がよい場所と、海流の強い場所がある。黒潮のある海域のほとんどは、たまたま両者が一致している。これは両方の発電が同一ポイントで可能であることを意味している。つまり、風力タービンと海流タービンの専用機もいいが、黒潮上においては必ずしも分かれている必要はないのである。

いっそうのこと両者を同じ躯体、それも一本の軸でやってしまえば、とても経済的ではないだろうか。つまり、一見すると通常の浮体式洋上風車だが、海面下では海流発電も行っている、というイメージである。

ただし、それでは機体のバランスの問題が生じる。たしかに、タツノオトシゴのように、一本の軸が海にそそり立っている状態でも、重力によって自ら揺れを納めようとする。だが、その回復スピードはのろく、波・風の波長によっては揺れが続く可能性もある。これは機械にとってよくない。だが、揺れを防ぐために頑丈な構造物や双胴等にすれば余計なコストがかかる。残念ながら、洋上発電の構想者はいずれもそっちの方向へ走っている。そこで私のほうで、余計な構造物なしで躯体を安定させるためのもっともシンプルな(つまり安上がりな)形状というものを考えてみた。

洋上三重発電機

図:Takaaki Yamada 2012

以上は単にアイデアをスケッチしたもので、むろん設計図ではない。素人の発想を図に起こした程度と受け止めていただきたい。

このように、波力発電を兼ねたブイ(浮き)を組み合わせることで、躯体を海上で安定させるものだ。これは振動水柱型といい、波が空気室を上下する度に往復気流が出入口部分に発生し、タービンを回す仕組みである。

中には、波力タービンは不要なのではないかと思われる人もいよう。だが、付け足しのように見えて、実際は姿勢制御の観点からも重要な役割を担う。単純にアウトリガーの役割を果たすが、六角形の輪状に配置することにより、垂直する軸がどの方向に傾いても、傾いた側のブイが正圧になり、その対側のブイが負圧になる。その際に生じるバランス回復作用が、個にあっては発電となり、全体にあっては姿勢制御の働きをする。エアブレーキついでに発電するようなものである。おそらく、これ以上、簡素化すれば機体の安定が損なわれる可能性がある。私はこれを「洋上三重発電機」と名づけた。

1万kWの建設施工費が30億円以内ならば…

風力タービンと波力タービンは、すでに完成された技術であり、信頼性も高い。振動水柱型のブイは、世界で初めて実用化された波力発電装置でもある。海流タービンは研究開発中だが、どのタイプが有望かはこれから明らかになるだろう。風車については、九州大学の大屋裕二教授の考案した「風レンズ」にしてもいい。原理はブレードの周囲に「輪」を取り付けることで前後に気圧差を作り出し、風を収束する仕組みであり、発電量が数倍になるという。太陽光でいえば「集光レンズ」のようなものだ。太陽光と風力の両方とも、ごく簡単な装置の追加でエネルギー密度を上げられる点が興味深い。

さて、せっかく洋上に浮かべるのだから、風車はできるだけ大型化すべきだ。直径130m≒5千kW級以上にはしたい。今ではこれで、だいたい10億円前後である。洋上の風況は陸上の倍くらいある。波力タービンと海流タービンは合わせて5千kW級で、できれば20億円以内に収めたい。スペックは三つを合わせた平均稼働率が6~7割、耐用年数が20年以上。このようなコストと性能は、決して非現実的ではない。重電・重工業メーカーの人で、これが「達成不可能な無謀な目標」だという人はいないと思う。

仮にこの「三重発電機」が1万kW30億円で製品化に漕ぎ着けたとしよう。私の考えでは、原発の完全な代わりとまではいかないが、その能力にもっとも近い自然エネルギー発電となりうる可能性がある。設置場所によっても変わるが、だいたい百基から百数十基を浮かべれば、ほぼ原発1基分の出力と安定した年間発電量が得られるはずだ。

ちなみに、昨年末までメガソーラーの建設費は1万kWあたり50億円と言われていたが、現時点で最安値が30億円くらいにまで急減している。それでも三重発電機は出力あたりメガソーラーの5倍以上の発電量があり、圧倒的にコスパが高い。

遠洋での発電にはメガフロートを活用

朝日新聞社

ただし、コストには様々な要素が含まれる。三重発電機の場合、建設費・施工費はほとんどかからない。製品を設置ポイントまで牽引するだけだ。係留方法は、錨を下ろすか、小型の電動プロペラなどを使って位置を固定するか、別途検討を要する。より大きな問題は送電である。これは設置場所によってかなり条件が異なり、コストは一律ではない。

関西・中部経済圏は、紀伊半島潮岬のすぐ沖がポイントになるので、ほとんど所内送電の問題だけですむ。しかし、首都圏は、たとえば房総半島の野島崎から三宅島まで、島伝いに南下して海底ケーブルを敷設していく必要がある。三宅島は東京都なので、これは地産地消に当たろう。犬吠埼の東沖側でも、数十キロ程度の海底ケーブルが必要になるかもしれない。このように、遠洋がポイントで、しかも海が深い場合、送電が厄介な課題になる。

私は解決策としてメガフロートを「親機」として利用してはどうかと思う。メンテ施設や蓄電池、ヘリポートなどを設置して基地化する。海底ケーブルは陸側の端末とメガフロートとの間に渡す。この親機の周辺に三重発電機を「子機」として展開するのだ。しかも、所内送電としてコースロープを使う。プール内の仕切りとして使われている「あれ」だ。浅瀬ならば子機の配電線を海底に這わせればよいが、海が深くて宙ぶらりんになる場合、コースロープを利用して海面に這わせたほうがいい。当然、発電海域は完全なデッドスペースとなり、いかなる船も立ち入り禁止となる。集電・蓄電・送電専用のベースまで作るからには、原発数基分の発電くらいはしてもらいたいところだ。将来、メガソーラーが廉価化すれば、この海域を浮体式太陽光パネルで埋めて「四重発電」にする手もある。

先行者利益を狙うなら未知の可能性に賭けるべき

上のアイデアは、別に荒唐無稽なSFではない。すでに個別の技術は、ほとんど出揃っている。実証段階の海流タービンも、遠からず商用化される。あとはそれをどう戦略的に組み合わせるかである。むしろ、問題は政治家や官僚の想像力ではないだろうか。

仮にこの三重発電機の価格を「標準化」と「量産化」によって抑え、最終的に送電経費なども含めて1万kW30億円以内に収めると、1kWh=5円以下の、非常に経済的な電源が実現する。自然エネルギーでありながら、ここまで安価で安定的な電力も稀有だ。しかも、大都市向けの大規模発電が可能だ。むろん、何も一躯体複数発電にこだわる必要はなく、風力と海流発電が別れていても何ら構わない。ただ、三大都市圏のエネルギー源たる黒潮上では、一緒に発電したほうが合理的だと言っているに過ぎない。

さて、海流発電に関しては、前半で以下の三つのメリットを挙げた。

  • 1・都市直結型の大規模集中型自然エネルギー発電が可能となること。
  • 2・素早く設置可能であり、建設に要するリードタイムが非常に短いこと。
  • 3・需要規模に対して個数の増減で柔軟に対応でき、海に面する多くの都市(とくに三大都市圏)の電源になりえること。
  • その他にも、二つのメリットを追加したい。
  • 4・経済的であること。

量産化の暁には、「自然エネルギーの中でもっとも安い」どころか、もしかして火力や原子力も含めたすべての発電の中で最安電力になりうる可能性がある。

  • 5・部品や工作機械産業等の逃避先として有望なこと。

これは少し説明を要する。私は自動車EV化の熱心な支持者だが、一方で幾つかの産業が大打撃を受けることを真剣に憂慮している。歯車屋さんなどは完全に死亡である。風力と洋上発電を推す理由には、これらの産業の新たな受け皿を創出する目的もある。

以上のように、非常にメリットが多い。むろん、未だ存在しない発電に対して、どうしてこうも自信満々に肩入れできるのかと訝る向きもあるだろう。私がこの稿で述べていることは、単なる主観であり、希望的観測に過ぎないと言われれば、たしかにそうかもしれない。だが、100%客観的な判断材料という安全パイは、二番手以下の地位と引き換えでもある。風力発電導入の先駆者となったデンマークでは、今や風車の製造が巨大な輸出産業に成長した。これこそ先行者利益である。日本が海流発電システムで同じ成功を得たければ、どこかで自分たちの非論的な予見を信じ、孤高のスタートを切る必要がある。

日本の地の利を生かした自然エネルギー開発を

ところで、ドイツは送電線を強化し、バルト海の巨大風力を南ドイツへ送る計画を立てている。あるいは、EU全体として、北アフリカの豊富な太陽エネルギーをヨーロッパへと移送する「デザーテック構想」を推進している。日本の自然エネルギー論者は、このような計画に対して、誰もが「凄い! 日本は遅れている! 追いつき追い越せ!」と羨望している。そして、EUの物まねをして、国内にスーパーグリッドを整備し、北海道の風力を東京に、九州の太陽光を関西に持ってこようとする。

だが、ちょっと待ってほしい。日本は幸運なことに、三大都市圏のすぐ近海に、巨大なポテンシャルの風力と海流が存在しているではないか。それはバルト海の風力や北アフリカの太陽光に負けない、いや、それ以上の自然エネルギー源である。これは地熱と同様、天がたまたま日本に与えた「地の利」であり、それを生かさない手はない。

日本は、FITをテコにしてメガソーラーや風車を各地に立てまくるといった、ヨーロッパの単純な後追いはせず(もう始めてしまったので軌道修正が必要だ)、まずは自らの自然環境に合った自然エネルギー普及策を考えるべきではないだろうか。それがまた、持続可能性やエネ安保の向上だけでなく、経済合理性の観点からも優れた選択と化すと思う。

海流発電の実証が成功すれば、今言ったように、房総半島沖と紀伊半島沖で大規模化を推進すべきである。これによって、三大都市圏でさえ自然エネルギーを利用した「広義の地産地消」が実現する。一方、日本列島の内陸部では、大型水力と地熱が豊富だ。水力はもはや開発地が残り少ないが、地熱はまだまだこれからである。また、風力は北海道・東北・九州でとくに豊富だ。これらの地域でなくとも、沿岸部はだいたいどこも風況がよい。

このように、今後の大型電源として「海流」「地熱」「風力」の三つ有望だ。

ただし、電力システム全体のバランスのことを考えて、かつての水力のように計画的に開発したほうが、最終的によい結果を残すと思う。そうすれば、この三つは、いずれも経済性をキープしつつ、電源比で10%以上は狙えるはずだ。

この経済性こそ重要な条件である。私は根本的には持続可能なものこそ真に経済的であると考えているが、ここで述べているのはあくまで発電単価のことだ。おそらく、メガソーラーで同10%比を達成する資金があれば、この三つ合計で30%比が達成できるはずだ。そうすると、発電量における自然エネ比を挙げるという目的からしても、資金が商用メガソーラーに集中している現状は間違っている。自然エネルギーという括りで、何もかも一緒くたにしてよい段階は終わった。太陽光発電は自家発に用いてこそ真価を発揮するものであり、個産個消として普及させるのが正しい。

日本の自然環境からすると、この三つに既存の水力を合わせた四つが、本格的に商用電力を構成できる電源となると思う。そして、重要なことは「日本のどの地域、どの都市であっても、この四つのうちのどれかに必ず手が届く」ということである。一つだけではなく、複数に手が届く地域も多い。実は、この事実が、新たな電力システムを創る上で非常に重要な意味をもってくる。端的に言えば、もっとコンパクトにまとめることが可能になる。

次回は、いよいよ「真の電力改革と自然エネルギー普及策――FITとは異なる日本オリジナル方式がこれだ」をお送りしたい。

2012年07月22日「アゴラ」掲載

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